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過去分の養育費請求や養育費の額の変更は認められるか

こんなとき,どう計算するの?「養育費算定表では分からない養育費の計算方法」シリーズ最終回

現在,裁判所の調停・審判では,「養育費算定表」に年収をあてはめて,簡易に養育費が算定されています。

養育費算定表」は,ウェブで簡単に手に入るのですが,実際の事例では,養育費算定表を見ても,どのように計算したらいいのか分からない場合があります。

このような場合にヒントとなる考え方を連載してお伝えしています。

最終回のテーマは,過去の分の養育費の請求の可否,養育費の支払始期,事情の変更があった場合の養育費算定,養育費と慰謝料を相殺した場合の計算方法です。

  • 過去の分を遡って,養育費を支払ってもらえるの?
  • 養育費を支払ってもらえるのは,離婚したときから?
  • ガンが発覚して仕事を辞めることになったら,支払う養育費を減額できるの?
  • 一度決めた養育費が算定表の相場より多かったとき,減額してもらうことはできるの?
  • 一括で養育費を支払ったのに使い切ったら,さらに養育費を請求されるの?
  • 慰謝料と養育費を相殺することはできるの?

こうした問題も,離婚前の生活費(婚姻費用の分担)の請求の場面でもよく問題になりますが,養育費の請求の場面でも基本的な考え方は同じになります。

過去の分の養育費

過去の分に遡るのは難しい

扶養義務のある状態になったら養育費が発生するという法律上の理屈からすれば,請求しないまま年月が経過しても,過去に遡って養育費を請求できるはずだと考えられそうです。

しかし,裁判所は,無制限には過去分の養育費を認めていません。その理由は,養育費が「定期的に」発生するものであること,養育費請求をしなくとも生活できていたこと,過去の状態の推測には限界があって扶養が必要な状態にあったか否かの判断も難しくなること,請求される側(義務者)にとっては長期間の分を一括で請求され支払わなければならないとなれば不意打ちとなって過当な負担となること,などにあるものと思われます。

もっとも,過去の分を認めている例が無いわけではありません。

しかし,養育費を確実に支払ってもらおうとすれば,放置することなく請求しておく必要があります。
なお,時効の問題もあり,消滅時効期間が5年ですので,裁判所が,養育費を遡って支払うべきという判断をする場合にも,過去5年分を限度とすることになりやすいでしょう。

養育費の始期

では,放置せずに養育費請求をしたものの支払ってもらえず,裁判所に調停を申し立てたときには,いつからの分の養育費をもらえるのでしょうか。

このとき,調停が成立したときや,調停外で養育費の請求をしたときという考え方もありえますが,裁判所の判断の実情で最も多い取扱いは「調停申立時」となっています。

請求する側(権利者)が請求される側(義務者)に対して「請求の意思を明示した時点」からの支払を認めるのが,権利者と義務者の公平の観点から適切と考えられており,その「明示した時点」を「調停申立時」と考える扱いが定着しているからです。

したがって,このことを意識し,できるだけ早期に養育費請求調停を申し立てることを考えた方が良いでしょう。調停を申し立てれば,その後,調停成立や審判までの期間が長くなっても,調停申立時に遡って養育費を認めてもらえることになります。

例外事例の存在

もっとも,養育費を離婚時に遡った事例,婚姻関係に無い両親の間の子で認知が必要な場合に子の出生時に遡って養育費の請求を認めた事例もあります。婚姻費用分担請求の裁判事例でも,別居時に遡って認めたもの,分担の紛争が生じた当時に遡って認めたもの,調停前の合意成立時に遡って認めたものがあります。
そのため,「なぜその時点から認められるべきなのか」「それまでどうして調停を申し立てられなかったのか」を説明し,諦めないで調停申立前の分の養育費を請求しても良いと思います。

ただ,遡って認めている裁判例も,やはり5年未満のものになりますので,長期間放置しておくのは避けてください。

事情の変更がある場合の養育費の額の変更

収入の変動

多少の収入の変動があっても,養育費を取り決めた当時に予測できた程度のものであれば,通常は,養育費の変更が認められません。

予測の範囲内でも収入変動に応じて養育費の金額を変更したいと思う場合には,養育費を取り決めるときに「定期的に養育費の額を見直す」という条項を入れておくことが考えられます。
逆に,収入変動があった場合でも養育費の金額を維持したい場合には,養育費を取り決めるときに「双方の収入が変動しても,養育費の支払い額に影響を及ぼさないことを確認する」などの条項を入れることになるでしょう。

2000万円の収入があることを前提に養育費を決めた場合に,その後,ガンとわかって,入院し,1300万円程度に収入が下がった事案で,養育費の変更が認められた事例があります。この事例では,さらに,翌年は600万円程度に下がると主張をしていましたが,この点については「将来の不確実な事情を前提とした判断はできない」とされ,将来の予測を前提とした変更は認められませんでした。

したがって,実際に収入が大きく変動していて,それがやむを得ない事情によるものである場合には,養育費の変更が認められやすいと言えます。他方,将来についての「見込み」だけでは変更は認められにくいということになります。

支出の変動

新たに住宅を買うなど,支出が増えて養育費の支払いが苦しくなったことにより,養育費を減らすことを希望される方がいらっしゃいます。
逆に,元配偶者の了解なく,子どもに私立中学受験をさせることにして教育費支出が増えたことを理由に,養育費の増額を希望されるような場合もあります。

しかし,取り決めた養育費の中でやりくりすべきであって,自ら支出増の原因を作りながら,支払が困難だといって養育費の変更を求めることは認められません。

他方,子どもが病気にかかったり事故に遭ったりしたなどの予測しえない事情により,子どもの医療費の支出が増加したときは,変更も認められます。

扶養関係の変動

新たに結婚したり,新たな子どもが生まれたりして,扶養しなければならない配偶者・未成年者が増えた場合には,変更が認められます。

また,子どもが養子縁組をしたときは,養親が第一次的な養育義務者となり,それまで養育費を支払っていた実親の養育義務が第2次的な立場に下がりますので,原則として,養育費の支払義務自体が無くなります。

算定表の相場と違っていることを理由とする養育費の額の変更

養育費の算定表の相場を知らずに養育費の金額を決めた場合であっても,合意した内容が有効となります。

したがって,算定表を用いた計算をしていればもっと高く請求できた場合や,逆にもっと低い金額ですんだ場合であっても,それだからといって,養育費の金額を算定表の額に変更してもらうことはできません。

もっとも,養育費の相場とあまりにも離れている場合や,養育費算定表を見誤って計算した場合などは,「錯誤」に基づいて,無効になる可能性もあります。また,合意の当初に考えていた事情とは変更があったという意味で「事情が変更した」とも言い得ます。
そのため,あまりにも養育費の相場と離れている合意の場合には,合意に至った経緯,養育費を決める当時に前提としていた事情も考慮されて,例外的に変更が認められる場合もあることになります。

先払いされた養育費が不足したことによる養育費の追加請求

一括払いされた養育費を計画的に使わなかった場合

子が成人に達するするまでの養育費として1000万円を一括でもらったけれど,子どもを私立の小学校や学習塾に通わせて中学校までに使い切り,後に自分の家業が不振となって,慰謝料,財産分与も家業につぎ込んで使ってしまったために,追加の養育費の請求をした事案で,追加請求が認められなかった事案があります。
一括で支払ってもらった以上,養育費をもらった側(権利者)は,計画的に使う責任があります。その責任を果たさず使ってしまったとしても,追加請求が認められないのは常識的な結論でしょう。

しかし,毎月定期的に養育費が支払われている場合に事情の変更があれば養育費の増額が認められるのですから,一括払いのときでも追加が認められる場合はありえます。

この事例では,養育費を請求する側(権利者)が,請求される側(義務者)と連絡を取ることを希望せず,そのために,請求される側(義務者)が子どもの教育について意見を述べることもなかったことが認定されています。離婚後に,父親と母親(そして子どもも)が話し合って,子どもに特別な教育を施すことを決めたのであれば,結論が異なっていた可能性があります。

もっとも,親と親との間の「養育費」請求ではなく,子ども自身が親に対して扶養の請求をする形を取ったときには,とりあえず子どもの生活費を立て替えるべきこと(将来,養育している側の親が,立替額を返済する)が認められた可能性もあるものと思います。

また,仮に公立の小学校・中学校・高校に通うことも難しいほどに困窮していたのであれば,最低限の教育に必要な限りでの養育費の支払が認められた可能性もあるものと思います。

一括で養育費を支払ってもらうことを希望される方は多いのですが,その場合には,できるだけ将来のことを予測して計画的に使う責任が生じるということになります。それでも,全てを予測するのは困難であり,思っていた以上に教育費がかかって,子どものために追加の養育費を求めなければ教育に支障が生じることがありえます。離婚しても,親子の関係は切れないのですから,子どもと養育費を請求される側(義務者)との面会交流を充実させたり,子どもの教育方針(私立か公立か,塾に行かせるかどうかなど) を相談したりする必要があるといえるでしょう。

慰謝料の相殺により清算して養育費の現実の支払がないことによる場合

養育費は,子どものために認められている権利ですから,親と親との間の問題である慰謝料の権利と相殺することはできないという考えもありますが,最高裁判所の判例も見当たりません。

しかし,養育費を請求する側(権利者)に浮気(不貞行為)などの離婚の責任があって慰謝料の支払義務があるのに,慰謝料を支払うお金がないために,養育費は要らないから慰謝料も無しにするという合意をして離婚がなされることがあります。そして,このような合意を有効と判断している裁判例もあります。

このような場合,離婚後,養育費無しに子どもを育てていく困難に直面し,実際に養育費をお金で支払ってほしいという請求がなされることがあります。
しかし,養育費は要らないから慰謝料も無しとするという合意を有効と考える場合には,養育費の請求は認められません。

もっとも,法律上,扶養を受ける権利は放棄することができないとされており,子どもの扶養を受ける権利自体を,親が権利放棄することは許されません。親が,自分の慰謝料支払義務を免れるために,子どもの扶養を受ける権利を放棄することはできないことになります。
したがって,子ども自身が,扶養を請求するという形を取れば,請求が認められる可能性は高いものと思われます(その場合には,養育している側の親が,扶養料を支払った側の親に対し,支払額を返さなければならないことになります。)。

また,子どもの年齢にもよりますが,慰謝料の相場に比較して,子どもが成人に達するまでの養育費の合計金額の方が高額であることも多く,形式的には慰謝料を多くして養育費相場とのバランスを取っていても,養育費を大幅に減額したのが実質であることも多いものです。
裁判所は,当事者の合意を重視し,合意内容の変更には慎重ですが,養育費算定表の相場とあまりにもかけはなれた養育費の合意をした場合と同様に,養育費の変更(追加請求)が認められる可能性もあると思います。

結語

最終回は,養育費の計算方法とは少し離れましたが,養育費に関してご相談の多い問題のご説明をしました。
これからも,離婚や養育費請求で,お役に立てる情報提供をしていきたいと考えています。
最後まで連載におつきあいいただき,ありがとうございました。

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