ご予約・お問い合わせはTEL.0572-26-9852
〒507-0032 岐阜県多治見市大日町21 大日ビル3号
最終更新日:2023年5月5日
裁判所の説明によると,「養育費」とは,「子どもが健やかに成長するために必要な費用」とされています。簡単に言うと,「子どもの成長のための生活費」と言えるでしょう。
養育費を支払う義務は,親には子を扶養する義務があることから,発生します。
そして,裁判所の説明では,父母が離婚する場合,次の2点がとても大切であるとされています。
そこで,この記事では,養育費について,制度の詳細説明,取り決め,支払いの順序で,解説をしていきます。
解説する項目は次のとおりです。
別記事「再現!女性紫崎恭子の養育費相談」では,よくあるご質問について,会話形式で分かりやすく解説しています。こちらも参考にしてください。
婚姻中(別居中・離婚前)の夫婦の場合,夫は,妻に対する扶養義務もあります。
収入が同レベルの生活をするのに足りないとき,妻は,自分と子どもが夫と同レベルの生活ができるよう,自分の分と子どもの分の生活費を合わせて請求できます。
これを婚姻費用(略して「コンピ」)と言います。子どもの分だけを養育費として意識する必要はありません。
この婚姻中(離婚前)の「婚姻費用」を計算するときには,子どもの生活費(離婚後の養育費にあたる部分)分も含めて金額を計算しています。
そのため,婚姻費用と別に養育費が請求できることにはなりません。
離婚するまでは,子どもの生活費を自分の分も含めて夫に婚姻費用として請求し,離婚後は子どもの分だけを養育費として請求すると覚えると良いでしょう。
婚姻している夫婦の間や,自ら自分の生活費を稼げる状態に至っていない(社会的に自立していない)子どもに対しては,自分の生活と同レベルの生活を保持させる義務があります。これを扶養義務の中でも,特にその義務が重いことから「生活保持義務」と言っています。夫婦が離婚しても,子どもは子どもですから,子どもに対するこの扶養義務に変化はありません。
子どもに対する扶養義務があると言っても,子どもは,高校卒業ころまでは生活費の管理ができません。多くの場合,大人が生活費を管理していることになります。
そのため,例えば,夫が子どもの生活費を負担していない場合には,妻が夫に子どもの生活費分も負担するように請求することになります。
そのため,扶養義務が,子どもの分を子どもに支払う形ではなく,夫婦(父母)の間で,婚姻費用(婚姻中)・養育費(離婚後)のやりとりがなされて,果たされることになります。
婚姻中でも,夫婦と子どもが一緒に同居生活している間は,「ダンナが生活費を渡してくれず,遊びに使ってしまう」という場合であっても,お金を渡してもらうために裁判所で裁判・調停をする,ということはほとんどありません。これは,同居している場合,夫が住宅ローンなど,何らかの生活費を負担していることも多いからかもしれません。
しかしながら,扶養義務を果たさず,婚姻費用を支払わないと離婚されても仕方ない,そのときには慰謝料も払わなければならないということにはなりますので,婚姻費用を支払う側になる方(多くの場合は夫)は注意が必要でしょう。
子どもが親元を離れて暮らすようなとき(遠くの大学・専門学校に行くとき,親戚に預けられるときなど)にも,裁判所で裁判・調停をして,生活費を請求する場面は少ないと思います。この場合も,子どもの学費などを夫が直接負担していることが多いからだと思います。
子どもの分だけの生活費が意識されるのは,主に,
の場合です。このように,子どもの分だけの生活費の話がなされるとき,その生活費の分担を「養育費」と言っています。
「養育費」は,子どもに対する義務なので,子どもに支払うという形で義務を果たすこともできます。親権者が,法定代理人として,子どもを代理して金銭を管理し,子どものために使うことになります。子ども名義の通帳を作成し,そこに入金してもらうような形式ですが,最近はこのような形も少し増えてきた気がします。
しかし,子どもと一緒に暮らしていない親が,子どもと一緒に暮らして子どもにかかる費用の支払をしている親に対してお金を払う形で,子どもに対する義務を果たすこともでき,親が親に対し支払うという方法がとられている場合がほとんどです。
妻が不倫をした,しかも,子どもを連れて出て行ってしまった,そして離婚になった,という,夫にとって悲惨な離婚があります。このような場合,養育費は,父親(元夫)から母親(元妻)へ支払われることになります。
こうした場合でも,元夫が,元妻に対してお金を払わなければならないなんて不条理ではないかという心情は理解できるのですが,「養育費」は,子どもに対する義務であり,離婚しても子どもであることは変わりませんので,養育費の支払いをしなければならないということになります。
確かに不倫され,離婚となる夫も悲惨なのですが,突然父親と引き離される子どもにとっては,事情もよく分からないままなぜこのような仕打ちを受けるのか,父親は私を愛していないのではないか,今後の自分の生活はどうなるのだろう,と沢山の不安を抱えます。自分で離婚を決意した当事者夫婦と比べ,そのような選択の機会も与えられないまま,一方の親との生活を奪われる子どもは,離婚によって最大の被害を被ると言えるのではないでしょうか(もちろん子どもに対する片親からの虐待があるなど子どもにとって必要な離婚手続きもあります)。ですから,「養育費」は相手(元妻)のために払うのではなく,子どものために払うのだという気持ちを持って,ぜひ支払って頂きたいと思います。
離婚して離れて住むようになっても,子どもさんに会ってあげてほしいと思いますが,このときも養育費を支払っていれば,会いやすいと思います。このとき,子どもを引き取った母親が子どもを元夫と会わせることに抵抗があることも多いのですが,これも元夫のために会わせるのではなく,子どものために会わせるのだという気持ちで受け止めてほしいと思います。
養育費は,取り決めをしなければ,なかなか支払ってもらえません。厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」でも,養育費の取り決めをしている世帯の方が,取り決めをしていない世帯よりも,養育費を受け取っている率が大幅に高くなっています。
しかし,子どもの父親と養育費の取り決めをしていない母親が多いのです。上記の厚生労働省の調査結果によると,協議離婚のときに取り決めをしていない母親が多いことがわかります。
離婚する夫婦の間の子どもの養育費の額や支払方法は,離婚のときに取り決めることも,離婚した後に取り決めることもできます。このうち,離婚のときに取り決めることが推奨されています。
養育費を取り決める方法は,4つの方法があります。
4つの方法それぞれのメリット・デメリットは,次のとおりです。
離婚時であれば離婚調停の中で合意することになり,離婚後であれば養育費請求調停をすることになります。
裁判所に申立をする必要があり,手間がかかります。
調停の費用は,公証人役場の公正証書作成費用よりも安く済みます。
調停の日程は融通がききにくく,調停の代理人には弁護士しかなれませんので,弁護士を立てない限り調停の日に裁判所に出向く必要も生じます。
家庭裁判所の調停で行った合意に違反があるときには,
が可能です。
預金に強制執行をするときには,銀行名だけでなく口座のある取引店も特定する必要があります(ただし,ネット銀行は取引店の特定不要)。取引店の特定が困難なときでも,家庭裁判所での取り決めの違反のときは,弁護士に依頼して,弁護士会を通じて銀行本店に照会してもらえば,口座の有無と取引店の回答が得られます(公正証書では回答してくれない銀行があります。)。裁判所の情報取得手続でも,銀行本店から回答が得られます。
家庭裁判所の履行勧告に強制力はありませんが,強制執行と比較して手続きが簡単です。裁判所が支払を促してくれることにより,合意どおりの支払が再開することもあるようです。
離婚調停で養育費の合意ができないときは,次のどちらかを選択することになります。
離婚後の養育費請求調停で合意ができないときは,「審判」という手続きに自動的に移行します。そして,裁判官が養育費の額を決定してくれます。
お子さんの将来のために養育費を多くもらいたい女性の方へ,弁護士木下貴子が作成したアドバイスブックを無料配布しています。
次のボタンをクリックし,「離婚調停で養育費を増やしたいときの具体的な話し方」のページへお進みください。
公正証書作成は,最も費用がかかる手続きです。
公正証書作成は,裁判所よりも日程の融通がききやすく,親族を作成手続きの代理人にすることもできます。
公正証書の合意に違反があるときには,
が可能です。
預金に強制執行をするときには,銀行名だけでなく口座のある取引店も特定する必要があります(ただし,ネット銀行は取引店の特定不要)。取引店の特定が困難なとき,裁判所の情報取得手続を行うことにより,銀行本店から口座の有無や取引店の回答が得られます。
離婚時に公正証書で養育費を合意するときには,公正証書では,離婚届を提出することと,離婚後の養育費の支払を定めるのが通常です。このような公正証書は,離婚届が実際に受理された後に養育費を支払うものなので,最近の裁判所の扱いでは,強制執行をしようとする場合に,離婚届受理後,公証人役場で,離婚後の戸籍謄本を提出して離婚成立を証明して,事実到来執行文の交付を受け,元夫(妻)に対してその送達をしてもらい,送達されたことの証明書の発行を受けることが必要とされています。(たとえば,名古屋地方裁判所のウェブページの記述)
公正証書の養育費の支払を定める条項を「離婚届出の前後を問わず」支払う定めにしてあれば,この手順を回避することができます。
夫婦(父母)の間で合意内容を書面にするだけならば,費用はかかりません。
口頭では後から合意した・していないの争いになることがありますが,書面で合意すると合意の有無・内容が証拠としてはっきりと残ります。
養育費以外の合意も含めて,弁護士が「離婚協議書」として作成することも可能です。(多治見ききょう法律事務所では,料金11万円(消費税込)でお受けしています。別記事「多治見ききょう法律事務所の離婚サービス解説」も合わせてご覧ください。)
現在は,法務省が合意書のひな形を公開していますので,定型的に養育費の合意だけをするのであれば,このひな形を使うと良いでしょう。
合意書どおりの法的義務が生じますが,違反があっても,すぐに強制執行することはできません。
民事裁判を経て,合意書どおりの支払が強制されることになります。
口頭の合意も有効ですが,後から合意した・していないの争いになることがありえます。避けた方が良いでしょう。
厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」の結果によれば,母子世帯の母親が,子どもの父親と養育費の取り決めをしている場合の取り決め方法は,次のとおりとなっています。文書なしの口約束の取り決めも23.1%あることがわかります。
では,養育費の金額はいくらが適正なのでしょうか。
法律で決まっているわけではありませんが,現在,裁判所では,父親と母親の内,裕福な方と同居した場合の生活レベルが,裕福でない方と同居することになった子どもにも与えられるべきという考え方で,養育費の支払額を計算するという方法が広く採用されています。
子どもの食費・学費・衣料費・医療費・部活の費用・塾の費用・お小遣いなどを合算したものを,父と母が分担しあうのではありません。
まず,収入の中から生活費に充てられる金額を概算します。税や社会保険料を引いた手取り収入の全てが生活に充てられるわけではなく,たとえばサラリーマンでいえば,給料の中から,スーツ・シャツ・ネクタイ・鞄・革靴などを定期的に買い替え,書籍を購入するなどもして研鑽を積むことが求められます。そのような費用として一定割合を差し引いた後の金額が生活費に充てられるものとしています。この金額を「基礎収入」と呼んでいます。
子どもが裕福な親と同居していたと仮定して,親と子どもが同レベルの生活をするときに子どもに充てられると考えられる額を算出します。
同居しているならば,収入を自分のために全部使うようなハイレベルな生活はせず,収入を子どもの生活にも回すはずです。
この場合の子どもの生活費を,父と母が基礎収入に応じて,負担し合います。
基礎収入が185万円である父と,基礎収入が129万5000円で15歳の子ども1人を養育する母の例を,裁判所の考え方で説明します。(額面給料で,父親の年収が440万円,母親の年収が223万円のとき,この基礎収入額になります。)
親(住居費を負担)と,親と同居する(自分の住居費がかからない)15歳の子の生活は,割合で,親のために100を使い,子のために85を使うと,同レベルになると想定されています。これを「生活費指数」と呼んでいます。父の基礎収入185万円を,父の生活費指数100と子どもの生活費指数85で按分すると,子ども分は85万円と算出されます。
そして,この85万円を,父の基礎収入185万円と母の基礎収入129万5000円で按分し,父の分担額を50万円と算出します。
そして,この50万円が,父が母に支払うべき養育費の額ということになります。
裁判所は,こうした考え方に従った養育費が簡便に計算できる「養育費算定表」という早見表を用意しており,例外的な事情がない限り,その養育費算定表に従って養育費を決めていることがほとんどであるという実態があります。
養育費算定表の使い方は,別記事「養育費相場の計算方法〜養育費算定表の使い方」に詳しく記載していますので,ご覧ください。
裁判所の養育費算定表は子どもが3人までの分しかありませんが。多治見ききょう法律事務所では,裁判所の養育費算定表を分析し,子どもが4人の場合の養育費算定表を作成しました。別記事「養育費算定表子4人表の作成-裁判所の算定表の分析から」で公表していますので活用してください。
また,単純な養育費算定表へのあてはめでは養育費を計算できない場合については,連載記事「養育費算定表では分からない養育費の計算方法」で解説していますので,こちらをご覧ください。
ただ,こうした裁判所の考え方により養育費を算定することについての批判や,養育費算定表を作る際に収入から差引いている費用の割合が不適切であるなどの問題点の指摘もあります。
日弁連が,平成28年11月に,こうした問題点の改善をめざして,「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表に関する提言」を発表しました。
裁判所はこの提言を採用していませんが,養育費算定表により計算した結果が不当な場合には,日弁連の提言の内容も参考にして,結果が不当となってしまっている理由を見つけ出し,適切な養育費の額を主張していくことが必要であると考えています。
この点については,別記事「日弁連の新養育費算定表とは〜裁判所の算定表との違いを解説」で詳しく解説していますので,ご覧ください。
子どもを養育している立場の親と養育費を支払う立場の親の考えが一致せず,裁判所で養育費を決めてもらうとなれば,その決め方はある程度画一的にならざるをえません。
しかし,子どもが自立するまでの子どもの生活については,父親と母親が話し合って決めるのが理想です。結婚して同居している家庭では,親の収入・年齢,子どもの年齢の状況により,将来の子どもの学費や老後の生活のために貯蓄をする時期,逆に貯蓄を取り崩す時期の計画を立てるはずです。また,高校卒業後の進路についても,収入・貯蓄の状況と子どもの希望・学力を勘案して,大学・専門学校・短大・就職の選択,学部の選択,国公立・私立の選択,親元から通うか都会で一人暮らしをするのかの選択,奨学金制度を利用するかどうかの選択を,家族で話し合って決めるはずです。
離婚した場合にも,収入・貯蓄・子どもの希望・学力などをふまえて話し合い,可能な限り子どもが健全で充実した成長を果たせるような道が選択されるべきだと思います。実際にはなかなか難しいことではありますが,夫婦としてはうまくいかなかったけれど,これからは子どもを育てていくパートナーとして協力し合う関係を築こう,と気持ちを切り替えていければ,と思います。
法務省が,「子どもの養育に関する合意書作成の手引きとQ&A」というパンフレットを作っています。わかりやすくできていますので,このパンフレットも参考にすると良いでしょう。
養育費が少なくて生活をしていけないという不満をよくお聞きします。逆に養育費を払うと生活していけないという話もよくお聞きします。
離婚したからと言って,父親と母親が稼ぎ出せる金額の総額が増えるわけではありません。それにも関わらず,夫婦が結婚していたときは,家賃・水道光熱費・NHK受信料も1軒分で済み,家電製品も1セットで済んだものが,離婚すれば(2倍にまではなりませんが)2軒分必要になります。
離婚後には児童扶養手当が支給されるようになる場合があることを考慮しても,離婚前よりも切り詰めた生活をしなければ,足りなくなってしまいます。
父親側の家庭も,母親側の家庭も,生活レベルを下げる必要が生じてきます。子どもにかかる費用も聖域ではなく,塾の費用などを減らす必要,私立をあきらめて公立に通うなどの必要も生じてきます。
妻(母親)の方が夫(父親)よりも収入が少なく,離婚したときに子どもを養育するのは妻(母親)ということが多いのですが,離婚をすると,元妻(母親)自身の生活費は,元夫からもらうことができません。児童扶養手当や子ども手当は,子どもの費用の補填でなく,子どもを育てている家庭を支援するものなので,行政からもらっているとも言えますが,大きな額ではありません。母親は,母親自身の分の生活費を稼ぐことができないと,生活していけないということになってしまいます。
正当な養育費をもらっている場合にも養育費が少なくて生活をしていけないということがありえますし,正当な養育費を支払っているだけの場合にも養育費を支払うと生活していけないということがありうるわけです。
このように,養育費は,支払う側にも負担が大きいもののため,養育費を取り決めても支払が続かないことがあります。
支払い続けてもらいたい場合には,次の記事も参考にしてください。
取り決めた養育費が支払われなくなったときには,裁判所の手続きを利用することが考えられます。
裁判所の手続きの実効性は,令和2年4月施行の民事執行法改正で,以前よりも高くなっています (改正について詳しく知りたい方は,別記事「養育費を支払ってくれない場合の新しい回収方法」をご覧ください。)。
裁判所の手続きには,
があります。
どの方法で取り決めたかにより,利用できる手続きが異なります。選択肢が多いのは,裁判所の離婚訴訟,離婚調停,養育費請求調停・審判で取り決めた場合です。
住宅ローンの負担のない不動産があれば不動産を差し押さえることもできますが,多くの場合には,差し押さえ可能なものといっても,預金と給与収入に留まります。その場合の回収手続の流れを図に示すと,次のとおりとなります。
お子さんの将来のために養育費を多くもらいたい女性の方へ,弁護士木下貴子が作成したアドバイスブックを無料配布しています。
次のボタンをクリックし,「離婚調停で養育費を増やしたいときの具体的な話し方」のページへお進みください。
Q&A目次
「養育費を多くもらいたい。でも,離婚調停でどのように話したらよいのか。」
弁護士木下貴子が,養育費を増やしたい女性の方へ,離婚調停での話し方をアドバイスしています。
次のボタンをクリックして,「離婚調停で養育費を増やしたいときの具体的な話し方」のアドバイスをご確認ください。
岐阜県東濃(多治見市,土岐市,瑞浪市,恵那市,中津川市)・中濃(可児市,美濃加茂市,加茂郡,御嵩町)地域の離婚・親権・養育費の問題で,弁護士をお探しなら,多治見ききょう法律事務所(弁護士木下貴子)にご相談,ご依頼ください。
岐阜県多治見市大日町21 大日ビル3号