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親族内承継〜子どもに引き継ぐための3つのポイント

最終更新:2019年10月12日

1 後継者(事業継承者)を決める

子どもに引き継ぐための重要なポイントの1番目は,「後継者(事業継承者)を誰にするか」です。
事業承継では「誰に」事業承継をするかを決めることが最も大事です。
事業承継に多く関わる税理士,中小企業を支援する公的支援機関でも,まずこの点を重視しています。
誰に事業承継をするかによって,具体的な事業承継対策は異なります。
そのため,後継者を決めることが,「事業承継対策」では1番目に大切であり,後継者を決めないままの対策は,抽象的なものとなり,実行力が乏しくなってしまいます。
また,節税目的だけを優先し,後継者を誰にするかを考えないまま,株式を分散して承継させてしまうことで経営権の行使に支障が生じてしまうケースもあります。

2015 年に中小企業庁が現経営者が誰から事業承継を受けたかを調査した結果によると,在任期間が35年以上40年未満(現経営者が事業を承継してから35年から40年経過している)の層では9割以上が親族内承継,すなわち現経営者は先代経営者の息子・娘その他の親族であると回答している一方,在任期間が短いほど親族内承継の割合の減少と従業員や社外の第三者による承継の増加傾向が見られ、特に直近5年間では親族内承継の割合が全体の約35%にまで減少し,親族外承継が65%以上に達しているとの結果があります。
つまり,以前は,8割〜9割が息子,娘が承継したけれど,ここ最近は,子どもを含めた親族に承継してもらえるケースは,半数以下に減っていることが分かります。
その中で,まずは親族の「誰に」事業を承継させたいのか,むしろ,数少ない子ども達の誰に承継してもらえるのかを考えることが大切になります。
この点,地元でうまく子どもに事業承継ができた中小企業の経営者の方に聞きますと,こどもが小さい頃から,誰を承継者にするか,ということを明確に決め,その子どもに「経営者」としての心構えを伝えてきたと言われます。
また,公的機関が主催する事業承継フォーラムで聞いた話では,事業を継承すると決めた後継者の方(長男)は,小さい頃から大河ドラマをみて,家を継ぐ運命,喜びを感じていた,という方もいらっしゃいました。
しかし,承継させたいと思っている子どもが,違うことをしたい!と言っている場合にはどうしたらいいのでしょうか?ご相談を受けていると,このような悩みを持つ経営者の方は多いようです。
上手く事業承継をされた経営者に聞くと,「引き継ぎたいと思うような事業にすること」がポイントのようです。
確かに当事務所で関与した事業承継事案でも,黒字経営で資産超過の会社では,関係している親族が自ら承継することを望んでいました。
このような財務状況の他,現経営者や後継を希望する子どもと職員との人間関係,会社の社会的評価,何より現経営者が楽しそうに仕事をしているのかが大事でしょう。

弁護士木下貴子のブログ記事「事業承継したくない!と言った長男がなぜ事業承継を決意したか」も参考にしてみて下さい。

2 現金化しやすい資産を残す

子どもに引き継ぐための事業承継3つのポイントの2番目は,「現金化しやすい資産(遺産)を残す」です。

中小企業が事業承継の相談をする相手として「士業」のトップは税理士です。
事業承継問題に多く関わっている税理士さんが指摘していたポイントが,この「現金化しやすい資産を残す」ということでした。

確かに,弁護士として相続問題に関わっていると,先代が,事業継承者(例えば,長男)にすべて遺産を引き継ぐつもりで亡くなった後に,他の相続人(長女,二男など)が遺産の取得を希望して紛争となる事例に多く遭遇します。  

問題を難しくするのは,事業継承者が引き継ぐ財産が「自社株」「不動産」(特に,事業に使用している土地,建物,後継者の自宅など)のようにお金には換えて渡すことができないものばかりが遺産のときです。

このとき,事業を承継する相続人が,遺産を引き継ぐ代わりに,他の相続人に支払うお金(代償金と言います)を持っていないと,解決が困難となり紛争が長期化します。

「遺言書」を先代の社長が書くことで渡す財産を減らすことはできますが,「遺留分」(相続人として最低限保証される持分)がありますので,他の相続人に渡すものを0とすることはできません。

事業に必要な不動産や自社株に対して他の相続人から遺留分の請求をされ,解決までに時間がかかると,事業への支障も生じます(弁護士木下が関わった案件では,解決までに10年以上要したものもあります)。

そのため,すぐにお金になる資産(現金・預金など)を,遺産として残しておくことも重要となります。

事業承継では,法律的な問題(法務課題),税金の問題(税務課題)の両方を解決することが必要ですが,この第2ポイントは,法務課題に関係する内容になります。

3 税金対策(節税と納税資金の確保)

法務課題をクリアし,法的効果が発生するように事業承継の手続きを進めていく上で,後継者が多額の税金を負担することがあります。

会社経営者が,相続時に後継者に株式の承継を行うときは,相続のときの相続税の負担が生ずることがあります。

生前贈与や売買によって株式の承継を行うときにも,贈与・売買を行うときと,前経営者死亡による相続のときのそれぞれの場面での税金の負担が生ずることがあります。

そして,「事業承継」を行う場面では,経営者が交代することで会社の信用力に変化が生じ,前経営者のときのようには銀行借入れができないことがあります。個人事業の場合は,前経営者の死亡により預金が凍結される事態も想定されます。後継者には,事業の運転資金とともに,自分の納税資金のやりくりが求められます。

個人事業の場合はもちろんですが,中小企業では,会社形態の場合も,経営者と会社が一体の関係にあって,経営者の信用・資金繰りと会社の信用・資金繰りが密接に関連しています。後継者の信用を維持し,その資金を確保するため,可能な範囲で節税をして,後継者の手元に「現金」を多く残す必要があります。

注意点すべきは,「節税」を第1の目的としないことです。第1,第2ポイントがしっかり対策できていれば納税資金の問題は解決できることが多いのですが,節税を優先すると第1,第2ポイントが解決できなくなる可能性があります。

「税金対策」は税理士さんが専門です。まずは,税理士に,税額の予測をしてもらいましょう。

「税金対策」としては,まずは,その金額を現金化しやすい資産として確保しておくことが必要となります。

そして,節税も考えることになります。

ここでは,主な対策をご紹介しますが,詳細は,弁護士とも連携が取れていて,事業承継の重要なポイントを理解している税理士に相談して頂きたいと思います。

他の対策としては,「保険」,「退職金」を有効に使う方法が比較的使いやすいと方法として存在します。
また,3年10ヶ月以内に相続で取得した「未上場株式(自社株)」を会社に譲渡する節税対策もあります。

① 暦年贈与

株式などの事業承継に必要な財産であっても,生前贈与すると贈与税が課税されます。

毎年少しずつ株式を贈与していけば,贈与税の年110万円の基礎控除の枠を有効に活用して,税負担を抑えながら,後継者に株式を承継させることができます。相続時には株式が減っていることになりますので,相続税も抑えられます。

毎年,前経営者と後継者の間で贈与の契約(合意)をすることが必要です。前経営者が形式的に名義移転をするのではなく,贈与を受ける後継者が承諾していることが必要です。

また,複数年にわたって名義移転を行っていくという約束(合意)は,その約束をした年に,複数年分の利益を基にした贈与税が課税されてしまいます。

毎年毎年,贈与について協議し,贈与契約書を作成するなど,税務署に証拠を示して説明できるようにしておきましょう。

株式は,上場株式,気配相場等のある株式,取引相場のない株式に分けてその評価をすることになっています(財産評価基本通達168以下)。取引相場のない株式の場合では,従業員数や総資産価額等で区分されて,それぞれの区分で認められる方法で株式を評価します。
適切に評価していないと,後で税務署の更正を受けて税額が増大してしまうことになるかもしれません。税理士さんに相談して適切に評価してもらいましょう。

② 相続時精算課税制度

相続時精算課税制度(相続税法21条の9以下)は,60歳以上の親等から20歳以上の子等に対して財産を贈与した場合に選択できる制度です。

複数年にわたり利用できる特別控除額(2500万円)を贈与財産の合計額から控除した金額に20%の税率で贈与税を計算して,贈与した者が亡くなったときに贈与された財産を相続財産に含めて相続税を計算して既に納めた贈与税を控除して調整するというものです。

最終的に相続税で精算されるのですが,贈与時には,後継者の税負担を抑えて後継者に株式等の財産を承継させることができます。

ただ,いったん相続時精算課税制度を選択すると,その後同一の贈与者からの贈与については同制度が強制適用され,前記①の暦年贈与による節税策が利用できなくなるため,注意が必要です。

どちらを選択した方が良いのか,税理士さんと相談しながら進めていきましょう。

③ 事業承継税制

平成20年に成立した経営承継円滑化法に基づき,平成21年度税制改正により,「非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予・免除制度」(事業承継税制)が創設されています。

事業承継税制は,事業承継に伴って発生する相続税・贈与税の負担により事業承継に支障が生ずることを防ぐため,一定の要件のもと,その納税を猶予・免除する制度です。

相続・遺贈の場合

具体的には,経営承継円滑化法における都道府県の認定を受け,5年間平均8割の雇用維持等の要件を満たした非上場企業について,その後継者が先代経営者から相続又は遺贈により取得した株式に係る相続税の80%の納税が猶予される制度です。納税猶予の対象となる株式数は,相続開始前から後継者が既に保有していた完全議決権株式を含めて会社の発行済完全議決権株式の総数の3分の2が上限です(租税特別措置法70条の7以下)。後継者が死亡したり,さらなる後継者に同じく事業承継税制の制度を用いて後継させると,猶予分の税金が免除されます。

生前贈与の場合

相続,遺贈ではなく,生前贈与で事業承継をする場合に,後継者が取得した株式(ただし,贈与前から後継者が既に保有していた完全議決権株式を含めて会社の発行済完全議決権株式の3分の2が上限)について,贈与税の100%の納税が猶予される制度もあります。

事業承継税制の特例措置

平成30年4月1日から令和5年3月31日までに承継計画を提出し,令和9年12月31日までに相続・贈与する場合には,さらに有利な特例措置があります。

  • 納税猶予の対象となる株式数の上限撤廃(100%可能)(原則制度は上限が3分の2)
  • 相続税額のうち猶予される割合100%(原則制度は80%)
  • 複数の株主から複数の後継者(3人まで)への株式承継でも利用可能(原則制度は1人の先代経営者から1人の後継者への株式承継のみ)
  • 「5年間平均8割の雇用維持」の要件が満たせない場合の救済措置あり

まとめ 事業承継の成功には連携が必要

事業承継には,「法律問題」≒法務課題の他,「税金問題」≒税務課題があり,弁護士だけでも,税理士だけでも全ての問題を適切に処理することはできません。

また,そもそも事業承継では,「人的」問題,経営者のマインド,ノウハウなど「知的資産」の引き継ぎが重要です。中小企業診断士に相談したり,「経営者」として実際に事業承継を経験した先輩方の話をセミナーなどで聞いたりすることなども必要だと思います。

このように,事業承継を成功させるには,各種の専門家との連携が必要です。

当事務所では,士業勉強会や経営者の勉強会を通じて知り合った各種専門家・経営者と「経営」「法律」「税務」の各方面で連携をして支援をします。

岐阜県内の商工会議所の会員の方であれば,登録をしている弁護士などの専門家を無料で派遣してもらえる制度も利用できます。(当事務所の所長弁護士木下貴子も岐阜県で専門家登録しています)。

まずは,ご自身の事業承継で,何が問題となり,どのように進めていったらいいのかを把握するため,気軽に事業承継の相談をしていただきたいと考えています。

次の記事も参考にしてください。

後継者が決まらない中小企業が60歳から始める事業承継対策

この記事を書いた弁護士

執筆者木下貴子

弁護士 木下貴子

多治見ききょう法律事務所所長
平成12年弁護士登録(弁護士歴24年)

平成27年4月から平成31年3月まで4年間,独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)中部本部にて,事業承継の専門職「事業承継コーディネーター」を務め,事業承継を進めている中小企業へのアドバイスを行いました。その後も,商工会議所・地域金融機関職員などへの事業承継に関する講習の講師を務めています。

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