婚姻無効

婚姻には婚姻届が必要

日本では，市役所・町村役場に婚姻届を提出することにより婚姻が成立することになっています。結婚式を挙げても法律上の婚姻をしたことにはなりませんので，結婚式を挙げて婚姻届をしないようなときは，法律上は婚姻といえるものがそもそも存在しない状態，有効だ無効だと言う以前の状態ということになります。つまり，この状態で破綻したような場合は，離婚問題ではなく，婚約破棄，ないしは内縁破棄というような問題となります。

婚姻意思・届出意思を欠く婚姻届は無効

国内で婚姻届をしても，日本人同士の婚姻が有効となるためには，夫婦の両方に婚姻意思と届出意思が必要です。日本人が外国人と日本国内で婚姻する場合にも，日本人側には婚姻意思と届出意思が必要となります。
婚姻意思というのは，夫婦共同生活を営もうという意思です。苗字を変えたい，日本の在留資格を得させてやりたい，死んだときに遺産が渡るようにしてやりたい，というだけで婚姻届を出しても，婚姻は無効です。
届出意思というのは，婚姻の届出をする意思です。男女の一方が勝手に婚姻届を出した場合，その婚姻は無効です。内縁の夫婦では，事実上の夫婦として共同生活をしていく意思はあっても，どちらかあるいは双方に婚姻届を出す意思が無いことがあります。

無効な婚姻届を出すと犯罪

戸籍に間違った婚姻の記録をさせると電磁的公正証書原本不実記録罪という犯罪になりますし，署名捺印を偽造すると有印私文書偽造罪及び偽造有印私文書行使罪になります。夫婦のどちらかに婚姻意思が無いあるいは届出意思が無いときには，婚姻届を出してはいけません。

無効でも戸籍の訂正には裁判所の手続が必要

このように犯罪も成立し，法律上は無効な婚姻でも，一旦受理されて婚姻の記載がなされてしまった戸籍を市役所・町村役場がすぐに訂正してくれるわけではありません。市役所・町村役場が有効か無効かを調査してくれることもありません。
戸籍の訂正をしてもらうには，裁判所の調停を経て「合意に相当する審判」を得るか，裁判所で訴訟をして判決を得て，確定した審判の審判書または確定した判決の判決書を付けて，市役所・町村役場に届け出る必要があります。
実際に私が経験した事例では，若い女性が交際をしている相手方でもない男性に，勝手に婚姻届を出されたという悪質なものがありました。婚姻届には本籍地を書く欄などがありますので，親しい関係でなければ勝手に記載することが難しいと思いますが，この方は自分の免許証を見られたのではないかとのお話でした（当時の免許証には本籍の記載がありました）。自分の個人情報が記載されているものの管理は本当に注意が必要ですね。
婚姻届は特別な事由がないと届出をした本人にも閲覧させてくれません。戸籍関係の取り扱いは法務局で管理されていますので，この方は法務局でご相談され，偽造された婚姻届の写し（証明書）をいただいた上で，私の所へ相談に来られました。

本人確認と受理通知

被害者なのに，これほど手間のかかることをしなければならないというのは大変ですので，現在は，このような問題を受け，婚姻，協議離婚，養子縁組，養子離縁，認知の５つの届出について，戸籍の窓口に来られた方の「本人確認」を必ず行うことになっています。そして，届出のご本人であることの確認ができなかった場合には、確認できなかったご本人（届出人）に対して，「婚姻等の届出」が受理されたことを届出人の住所地に郵送等により通知することになりますので，先ほどのような事例は以前より起こりにくくなったと思います。しかし，通知は婚姻の届出を受理してから発送されますので，一旦は婚姻が成立したことになり，無効な婚姻届を完全に防ぐことはできません。

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