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事業承継4つのポイント

最終更新:2020年6月21日

「親族内承継〜子供に引き継ぐための3つのポイント」では,主に親族,子どもに事業を引き継ぐ際のポイント・注意点をお伝えしてきました。

この記事では,弁護士木下貴子が,従業員・第三者(M&A)に引き継ぐ場合も含めた事業承継のポイントをお伝えします。

この場合,色々な注意点,ポイントがあると思いますが,弁護士木下貴子は4つに整理しています。

それは,1いつ,2誰に,3何を,4どのように承継するか,の4つです。
この中で,一番最初に検討すべきなのは,やはり「誰に」です。誰に承継するかによって,いつから手を着けるべきか,どのように承継すべきなのかも異なってきます。
そこで,まずは「誰に」承継すべきかを考えたいと思います。

まず,「誰に」承継すべきかは大きく分けると,親族に承継する「親族内承継」と親族以外に承継する「親族外承継」があります。そして,親族外承継を更に分類すると,「従業員承継」と「第三者承継」となります。

このうち,可能性を検討していく順序は,①親族内承継,②従業員承継,③第三者承継と言われています。
中小企業は代表者個人の信頼で成り立っている部分も大きいため,この順序で考えることが,取引先,融資金融機関,職員などの関係者に一番受け入れやすいと考えられるからです。

この考え方でいくと,親族がどのように事業に関わっていたかにもよりますが,同程度の関わり方だとすると,おそらく子供,配偶者,子供の配偶者,兄弟,甥姪などの順で受け入れやすさを考えていくことになると思います。

事業承継第1のポイント(誰に)

まず,4つのポイントのうち「誰に」について考えていきます。

  • 仮に子供の中で後継者を考えた場合,どのような基準で選べばよいのでしょうか?
  • 第三者承継も含めた場合,後継者に必要とされる資質は何でしょうか?

平成29年4月に中小企業庁が公表した「経営者のための事業承継マニュアル」では,後継者には「事業を継続・成長させていける人材を選ぶ」ことを勧めています。

そして,以前は長男が事業を承継するケースが多くみられたけれど,現在では,従来の常識にとらわれずに,経営を取り巻く環境変化に対応しながら事業を継続・成長させていくことができる人物を後継者として選定することが望まれる,としています。

具体的には経営ビジョン,覚悟,意欲,実務能力から総合判断するということも例示しています。

私は,中でも,一番大切なのは「理念(≒経営ビジョン)が共有できること」「変革気質をもつこと」と思っています。

帝国データバンクが長寿企業4000社に実施したアンケートにおいても「今後生き残っていくために何が必要だとお考えですか?」という質問の答えは,第1位が信頼の維持,第2位が「進取の気性」≒チャレンジ精神です。

つまり,変えないもの(信頼,経営理念)を継承しつつ,変えるべきものを変えていく力が後継者の方には必要なのではないでしょうか?

以前お話を聞いたジャパネットたかたの前社長が息子さんを後継者として選んだ基準,方針についてもそのようなお話をされていて,「不易流行」を大切にしている,とおっしゃっていたのが印象的でした。(その際,具体的にどんなことに気をつけたのかなど,詳しくは,弁護士木下貴子のブログ記事「承継後に最高の利益〜ジャパタカ前社長の事業承継」に記載しましたので,参考にしていただけると嬉しいです)

また,同マニュアルでは,後継者を選ぶ際には,後継者候補の方などと対話を重ねて,相手の真意をしっかりと確認することの重要性も指摘しています。

時間がかかるので早めに取り組み,後継者を社内外の関係者と共有することで安心して進められます。
事業を継ぐ意思がないと言っていた子どもや親族が突然「事業を継ぎたい」と言い出すこともあるので,後継者を選ぶ際は,まずは, 親族の意向をよく確認しておくことも重要です。

このページの冒頭に記載したように,可能性を検討していく順序は,①親族内承継,②従業員承継,③第三者承継と言われていますので,順番に意向を確認しながら進めていくことが良いと思います。

また,②,③の親族外承継では,実務に精通した役員や従業員の中から後継者を選定したけれど,リーダー的性格ではなかったなどというケースもあるようです。
そのため,他の従業員や取引先からの人望が厚い人を選ぶことも大切な後継者を選ぶ基準だと思います。

特に,起業した初代経営者は,自分で事業を切り拓いた「カリスマ」性があり,その点で1人でもリーダーシップを発揮して引っ張っていける印象がありますが,
ある程度会社の規模が拡大した後に承継する後継者の場合には,従業員や取引先に支えられて経営をしていく能力,愛される能力,コミュニケーション能力が「リーダー」として必要な資質のように感じます。

後継者を選ぶ際には,理念が共有できること,変革気質があること,関係者からの人望が厚いことを基準の参考にしていただけたらと思います。

事業承継第2のポイント(何を)

誰に承継するかが決まったら,次に重要なポイントは「何を」承継するか?です。

「事業承継」なのですから,承継すべきものは「事業」ですが・・「事業」と抽象的に言っても具体的には何を引き継いでいったらいいのかイメージしにくいと思います。

そこで,「事業」を要素に分解して考えていくのがいいでしょう。

この分解の仕方はいろいろあります。
例えば,第1のポイントでもご紹介した「経営者のための事業承継マニュアル」では,

  • ①人(経営)の承継( 経営権 ・後継者の選定・育成・後継者との対話 ・後継者教育)
  • ②資産の承継(株式 ・事業用資産(設備・不動産等・資金(運転資金・借入金等・許認可)
  • ③知的資産の承継(経営理念 ・経営者の信用 ・取引先との人脈 ・従業員の技術・ノウハウ ・顧客情報)

と分解し,①人(経営)の承継,②資産の承継,③知的資産の承継の総合が「事業承継」と考えています。

弁護士という法律専門職の目線で見ると,以下の3つに分解して考える方が課題が分かりやすいと思いますので,ここではそちらをご紹介します。

経営の承継(①人の承継のうち,経営権の承継を除く+③知的資産の承継)

  • 経営改善
  • 後継者教育
  • 社内外の環境整備 など

これらは,一般的に目には見えづらいものであり,少しずつ経験,事実を積み重ねて承継していくものです。つまり,なんらかの法律上の効果として承継が完了する,というものではないものになります。
この承継は弁護士がお役に立てることが比較的少ない部分になります。

経営権の承継(①のうち経営権の承継+②のうち株式の承継)

  • 後継者の経営権の確保
  • 自社株の後継者への集中
  • 会社法制の活用
  • 贈与,相続に係る税務対策 など

法人の場合になりますが,株式の承継のことです。1の経営承継により,事実上社長としてふるまっていたとしても,株式≒経営権の承継がなければ,その地位を奪われることがあります。
法的手段で確実に承継をしておく必要があります。

事業用(個人)資産の承継(②のうち株式の承継を除くもの)

  • 個々の事業に関する財産の承継(事業用不動産・機械類・借入金など)
  • 遺留分の配慮
  • 贈与,相続に係る税務対策 など

事業用に社長個人の不動産や機械類などを使っている場合,後継者が確実にこれらの事業用の財産を引き継がなければ,事業に支障が生じえます。負の資産とも言える事業用の借入金も後継者が承継しなければ,金融機関への返済に支障が生じますし,法人が社長から借入をしている場合には,後継者以外のものが承継すると突然に返済を迫られるなどのトラブル(詳細は,「親族内承継で考えられる法的トラブルと対策の例」を参考にしてみてください。)が生じます。
法的手段で確実に承継をしておく必要があります。

以上の1経営の承継,2経営権(株式)の承継,3事業用資産の承継の総合が「事業」の承継となりますので,この3つの要素どのように確実に引き継いでいくのかを考えるのが大切になります。

事業承継第3のポイント(いつ)

後継者の年齢は40代

中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月株式会社野村総合研究所)の調査によると,事業承継のタイミングで「ちょうど良い時期だった」と答えている割合が高いのは,40〜49歳で事業承継した経営者です。
次に割合が高いのが,40歳未満,50〜59歳,60歳以上の順。60歳以上では,42.6%の経営者が「もっと早い時期の方が良かった」と答えています。
経営者が「ちょうど良い時期だった」と答えた事業承継時の平均年齢は43.7歳です。

同じアンケート調査で,「事業承継時の年齢と承継後の業績」について尋ねていますが,事業承継時の年齢が40歳未満→60歳以上に上がっていくほど,「承継後の業績が良くなった」と答える割合が減っています。

つまり,反対に言うと,後継者の年齢が若いうちに承継したケースほど,「利益が出せる経営ができている」と言えることになります。

このようなことから考えると,ケースごとに最適な時期は違うでしょうが,一つの目安として,後継者が40代の間までには引き継げるよう準備しておくと良いでしょう。

現経営者の年齢は60代

前記の調査によると,40歳未満→40〜49歳→50〜59歳→60歳〜69歳→70歳以上と年齢が上がれば上がるほど,「経常利益が減少傾向」と回答している割合が高くなっています。

つまり,経営者の年齢が40歳未満→70歳以上にあがっていくほど,「利益が出せる経営が困難になっている」と言えることになります。

特に,小規模事業者(製造業:従業員20人以下,商業/サービス業:従業員5人以下)では,その傾向が顕著です。

そのため,国としては,早期の事業承継準備の着手を勧めています。

ところが,中小企業経営者の高齢化が進んでいる状況の中,実際に準備に着手している企業は70代,80代の経営者でも半数もありません((株)帝国データバンク「中小企業における事業承継に関するアンケート・ヒアリング調査」(2016年2月))

後継者の育成期間も考えると,事業承継の準備には5年〜10年程度を必要とされ,経営者の平均引退年齢が70歳前後であることを踏まえると,60歳頃には事業承継に向けた準備に着手する必要がある,とされています。(平成28年12月 中小企業庁事業承継ガイドライン)

このようなことを考えると,やはり,ケースごとに最適な時期は違うでしょうが,一つの目安として,経営者が60歳になったら,事業承継の準備に着手し,60代のうちに後継者に引き継げるようにしておくと良いでしょう。

事業承継のタイミング

以上の話から,後継者が若い30代から事業承継の準備を始めて40代までには事業承継を完了している方が,「タイミング」がよく,利益も増加させ続けられる可能性が上がる,と言えそうです。

そのため,実際には難しいと思いますが,できるだけ早くに後継者を決定(20〜30代までに)→社内で色々な仕事をしてもらう(社外での勤務を経験してもらう)→40歳前から事業承継を開始して40代前半には概ね完成する,と理想的ですね。

親族内承継の場合,現経営者が40歳の時には,現代は晩婚化していることもあって,子どもさんは10歳以下のことも多いと思われます。
後継者からすると,40歳になる頃に承継することが一番良いと回答されていますので,現経営者が40歳になると次第に利益が減少傾向になるからと言って,あまりにも若年,経験の浅いの後継者に承継することは,困難です。

私自身も父が30歳の時の子どもですが,現社長が30歳のときに初めての子どもが生まれる,というのは私の身近に良くある事例です。そうすると,生まれた子どもさんは,現社長が60歳になるときに,やっと30歳になっています。

そうすると,親族内承継の場合,前記の通り,事業承継に必要な期間は,5〜10年とされていますので,現経営者が60歳となり,後継者が30歳になった頃から始め,現経営者が70歳,後継者が40歳頃までに承継が完了しておくことが望ましいと思います。

そのように進めれば,承継者にとって理想的な40歳に事業承継が完了できていることになります。
従業員の方に一次的に承継させる場合にも同様に,自分が60歳となり,承継させる予定の従業員が30代から事業承継を始めて,40代までには事業承継が完了しているのが望ましいと思います。50歳を越えてから事業承継をすると,せっかく承継したのに,「承継後の業績が上向く」可能性が低くなってしまいます。
そのために,逆算すると,現経営者が60歳になったら,事業承継ガイドラインにも記載があるように,事業承継に取り組み始めた方がいいでしょう。

事業承継にいつ取り組むべきか,タイミングと利益の関係について,詳しくは,ブログ「驚!事業承継のタイミングと利益増加の関係」に記載していますので参考にしてください。

また,親族内に後継者が見つからない場合について,別記事「後継者が決まらない中小企業が60歳から始める事業承継対策」では,その対策の一例をご紹介していますので,参考にしていただけたらと思います。

事業承継第4のポイント(どのように)

経営の承継(人の承継+知的資産の承継)

事業承継第2のポイント「何を」承継するかで,承継する「事業」を分解しましたが,まずは,そのうちの「経営の承継」についての具体的な方法についてお伝えします。

親族内承継と親族外承継のうちで従業員が承継する場合には,以下の3つを順番に進めていくことが大切です。

関係者の理解
後継者候補がいる場合には,本人の了解を得て,親族,役員,従業員,取引先,金融機関に事前説明をしておきましょう。
後継者教育
後継者になる方に,経営に必要な能力・知識を習得するために社内での各分野のローテーション・責任ある地位を任せていく他,社外での後継者研修への参加などをしてもらいましょう。
経営資源の棚卸し
会社の強みと弱みを現経営者と後継者が一緒に考えることが大切です。経営理念・ノウハウ・顧客とのネットワークなどの知的資産を引き継いでいきましょう。中小企業基盤整備機構が提供している「事業価値を高める経営レポート」をツールとして使って自社の歴史や知的資産,将来に向けた事業のあり方をまとめるのも引き継ぎやすい1つの方法だと思います。

経営権の承継(株式の承継)

次に,承継する「事業」を分解した2つ目の項目,経営権の承継(株式の承継)についてどのような手順で進めたらいいのか,具体的な方法についてお伝えします。

株式の所有者が社長(代表取締役)を決定することが出来ますから,株式を確実に承継することは事業の安定的な運営に不可欠です。以下の3つを順番に進めていくことが大切です。

生前承継
生前準備
売買または贈与(生前承継)で後継者に確実に承継することが望ましいです。少なくとも,遺言書・死因贈与(生前準備)でいざというときには後継者に承継できるようにしておくことが必要です。
遺留分対策
売買以外の方法で承継する際(贈与,遺言による相続などで対価を支払わずに承継する場合)には,後継者が他の相続人から「遺留分」を侵害したとして相当金額を支払うように請求されることがあります。そのための資金の準備をしましょう。また,そもそも遺留分を侵害しないような遺産配分をすることにも注意をしましょう。
会社法上の対策
資金の準備が難しい場合,議決権制限株式を非後継者に渡すことなで会社法の手続きを利用して遺留分の対策,経営権の確保をする方法もあります。弁護士に相談しながら進めて行くことになります。

事業用資産の承継(社長個人の資産承継)

次に,承継する「事業」を分解した3つ目の項目,事業用資産の承継についてどのような手順で進めたらいいのか,具体的な方法についてお伝えします。

株式と同様に事業に必要な資産を確実に承継することは,安定的な運営に不可欠です。以下の3つを順番に進めていくことが大切でしょう。

事業用資産の
洗出し
会社の事業に使っている社長個人の資産は何があるのかを洗い出しましょう。見落としやすいものは,社長個人の会社への貸付金債権,会社で使用している不動産の一部・知的財産権が社長個人名義のままになっている場合です。 
生前承継
生前準備
売買または贈与(生前承継)で後継者に確実に承継することが望ましいです。少なくとも,遺言書・死因贈与(生前準備)でいざというときには後継者に承継できるようにしておくことが必要です。
遺留分対策
売買以外の方法で事業用資産を承継する際には,後継者が他の相続人から「遺留分」を侵害したとして相当金額を支払うように請求されることがあります。そのための資金の準備や,遺産配分に注意をしましょう。資金を準備できない場合には,民法の特例により,遺留分の対象から外す制度を利用することも検討しましょう。家庭裁判所の許可が必要な手続きとなりますので,弁護士に相談しながら進めるべきでしょう。

この記事を書いた弁護士

執筆者木下貴子

弁護士 木下貴子

多治見ききょう法律事務所所長
平成12年弁護士登録(弁護士歴24年)

平成27年4月から平成31年3月まで4年間,独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)中部本部にて,事業承継の専門職「事業承継コーディネーター」を務め,事業承継を進めている中小企業へのアドバイスを行いました。その後も,商工会議所・地域金融機関職員などへの事業承継に関する講習の講師を務めています。

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