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精神的不調(メンタルヘルス不調)を訴える従業員への対策

従業員(労働者・職員)がメンタル面の不調から仕事ができない場合,健康面が心配である一方,企業・会社の「経営者」「使用者」としては,働いてもらえないのでは事業活動に支障が生じてつらいというのも本音でないかと思います。

また,メンタル面の不調があるとミスをする可能性が高まるため,事故によって,本人や他の従業員,取引先の人などに危険が生じ,会社にも損害が生じる可能性があります。

では,そういうときに,例えば,メンタルヘルス不調を訴えている従業員(労働者・職員)に「仕事を辞めてもらう」ということはできるのでしょうか?

その場合の注意点は?

このページでは,年々増加傾向にある従業員(労働者)の心の健康問題についての企業はどう対応すべきか,その注意点について記載します。

メンタルヘルスケアの必要性(企業・経営者の義務)

従業員のミスによる企業(経営者)の責任(使用者責任)

ある事業のために他人を使用する者(会社の経営者,企業)は,被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う,とされています(民法715条第1項)。

報償責任の法理

なぜ,従業員のミスによる損害まで,会社(使用者)が責任をとらないといけないのか?と考えると,この条文の根底には,報償責任の法理があるとされています。

これは,事業活動において利益を得ている使用者は,その収益活動から生ずる損害についても責任を負うのが公平であるとする考え方です。

危険責任の法理

また,危険責任の法理もあるとされています。

これは,事業活動をすれば,それに伴って何らかの危険も伴うところ,危険な行為により利益を得ているのであれば,その行為が原因で第三者に損害を与えた場合は,その利益から損害を補填するのが公平であるという考え方です。

こうした責任があることから,会社(経営者)は,従業員のミスによって会社に損害賠償損害が生じうることを踏まえた上で,できる限りこれを回避するため,従業員のミスを避けるような対策を考えておくことが必要になります。

企業(経営者,社長,事業主)の安全配慮義務

最高裁の判例によると,使用者は,必ずしも労働者(従業員)からの申告がなくても,その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき「安全配慮義務」を負っているとされています。(最高裁判所平成26年3月24日判決,詳しくはブログ記事「労働者が精神的不調を訴えていなくても,企業はメンタルヘルスケアをすべき義務がある?」に記載しています)

そして,精神的健康(メンタルヘルス)の情報は,過重な業務が続く中では労働者(従業員)本人にはその体調の悪化が見過ごされがちなため,労働者(従業員)本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で,必要に応じてその業務を軽減するなど労働者(従業員)の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきとされています。

また,2014年6月に労働安全衛生法が改正され,従業員50名以上の事業所については,使用者に労働者(従業員)の心理的負荷の程度をはかる検査実施が義務付けられました(2015年12月施行)。検査結果は,労働者(従業員)本人の同意を得て,使用者に伝えられます。

このように,労働者(従業員)のミスを回避するという観点からだけでなく,企業は会社のために働いてくれる労働者(従業員)の健康を守る義務があることになります。

そのため,必要なメンタルヘルスのケアをしなかったために,労働者がうつ症状を発生するなどの精神的な不調に陥り,働けなくなるなど労働者自身に損害が生じた場合にはは,これに対する責任,損害賠償義務も負うことになります。

これらのことから,検査結果を適切に把握するシステム構築や,検査実施義務の対象外の会社としても,労働者のストレスチェックをする機会をつくることがますます重要になります。

メンタルヘルスケア(ストレス把握)の具体的方法

仕事・職場で強いストレスを感じる3大原因

厚生労働省の「平成29年 労働安全衛生調査(実態調査)」によると,現在の仕事や職業生活に関することで,強いストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は58.3%(平成28年調査59.5%)となっています。

このように,労働者が「職場」「仕事」でストレスを感じている割合は約6割となっており,精神障害を原因とする労災補償(給付事業)状況は増加傾向にあります。

強いストレスの内容のうち,主なもの3つは以下の通りです。

  1. 仕事の質・量 62.6%(同53.8%)
  2. 仕事の失敗,責任の発生等 34.8%(同38.5%)
  3. 対人関係(セクハラ・パワハラを含む。) 30.6%(同30.5%)

そのため,特にこういった問題で労働者がストレスを抱えていないか,意識をし,声掛けをすることが重要になります。

メンタルヘルスをチェックする方法

ストレスチェック制度とは?

メンタルヘルス不調により,休職・退職を余儀なくされたり,業務上のミスをしてしまうようなことは,使用者側(会社の経営者)の事業や損害賠償責任など,様々な問題が生じます。

そのため,労働者のメンタルヘルス不調をいち早く発見し,医師の相談へと繋げることが重要です。労働者のストレスをチェックする中で職場環境の改善に努めて,メンタルヘルス不調による大きな損害も未然に防止することが可能になります。

具体的に,労働者のメンタルヘルス不調をチェックする方法として,「ストレスチェック制度」があります。

厚生労働省のHPによれば,この「ストレスチェック制度」は,「定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い,本人にその結果を通知して自らのストレスの状況について気付きを促し,個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させるとともに,検査結果を集団的に分析し,職場環境の改善につなげることによって,労働者がメンタルヘルス不調になることを未然に防止することを主な目的としたもの」であると説明されています。

ストレスチェック制度の対象となる事業場

従業員数が50人以上の事業場はこのストレスチェック制度を実施する法的義務があります。50人未満の事業場については,当分の間努力義務となっています。
そのため,ほとんどの会社においては努力義務にとどまることになります。

しかし,努力義務の対象の会社であっても,労働者のメンタルヘルスに関する問題が社会問題化して,義務が定められたことは,使用者側(会社の経営者)としては注意すべきです。その詳しい理由は,ブログ記事「労働者のストレスチェックをしない企業のリスク〜概要と必要性」に記載しています。

ストレスチェック制度の概要

1年に1回,労働者に対してストレスチェックを実施することとなります。

ストレスチェックの調査票は,使用者(事業主,会社の経営者)が決めることができますが,法に基づくストレスチェック調査票の場合,次の3領域を含むことが必要とされています。

仕事のストレス要因
職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目をいいます
心身のストレス反応
心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目をいいます
周囲のサポート
職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目をいいます

ストレスチェック制度実施の手順

ストレスチェックを実施する前に,制度全体の担当者や実施方法など社内ルールを策定する必要があります。

ストレスチェックの具体的方法としては,質問票を労働者に記入してもらい,実施者(医師,保健師,厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士・歯科医師・公認心理師)がストレス状況を評価し,本人に結果を通知するという流れになります。

ストレスチェック制度実施結果による必要な措置と注意点

ストレスが高いと判断された人に対しては,本人からの申し出により,医師による面接指導が実施され,就業上の措置の必要性の有無とその内容について意見を聞き,労働時間の短縮などの必要な措置を実施することとなります。

ここで,質問票は,医師などの実施者が回収して評価することとなっており,第三者や人事権を持つ職員が,その内容を閲覧してはなりません。評価結果については,実施者から直接本人に対して通知されることとなっており,使用者が結果を入手するには本人の同意が必要です。

これは,使用者側が簡単に閲覧できてしまう制度設計では,率直な回答は得られないことによります。

また,法律で,ストレスチェックや面接指導で個人情報を扱った者に対しては守秘義務が課され,事業者については,労働者が医師による面接指導を希望したことなどにより労働者に対する不利益取扱いをすること,面接指導の結果を理由とする解雇等を禁止しています。

もっとも,「検査結果を集団的に分析し,職場環境の改善につなげることによって,労働者がメンタルヘルス不調になることを未然に防止すること」も目的とする制度ですので,結果に基づいてより良い職場環境にするため,ある程度の使用者(会社の経営者)との情報共有がされるのが本来は望ましいところだと思います。その趣旨もお話して,同意を得られる範囲で情報を共有し,職場環境の改善に生かしましょう。

日常からメンタルヘルスを意識する必要性

裁判所では,「メンタルヘルスに関する情報は,労働者にとって,通常は職場において知られることなく就労を継続しようとすることが想定される性質の情報であり,使用者は,必ずしも労働者からの申告がなくても,その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っている」と判断されています。

裁判所が,労働者から申告がない場合にも事業主に安全配慮義務があるという判断をしていることからすれば,ストレスチェックを実施しさえすれば良いということにはなりませんし,ストレスチェックの結果を申告するよう求めれば良いということにもなりません。

ストレスチェック実施以外に,日常的に,労働者のメンタルヘルスに気を配り,環境調整をすることが必要となります。

精神的不調がある労働者の業務変更

これまで記載したように,精神的不調から欠勤を続けている労働者(従業員)がいる場合,使用者には,安全配慮義務の内容として,まずは健康状態を調査し,必要な場合には治療を勧めた上で休職等の処分を検討し,その後の復帰可能性を検討すべきであるとされています。

治療により,労働者(従業員)の健康状態がある程度改善しても,元の仕事が,危険や経済的損失につながるストレスの大きい仕事であるために,元の仕事への復帰が難しい場合があります。

このような場合に,労働者(従業員)から,別のストレスの少ない業務で働かせてもらいたいという申し出がなされることもあります。
そのときに,別の業務を与えて復帰させなければならないのでしょうか。

職種や業務内容を特定せずに労働契約をした場合

この場合,判例は,現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても,その能力,経験,地位,当該企業の規模,業種,当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ,かつ,その提供を申し出ているならば,これに応じるべき,としています。

その理由は,同じように雇われた労働者(従業員)の中に,別の業務を命じられていてその業務に従事できれば賃金を受け取れる立場の者がいるのに,使用者(事業主)に決められた配置により,それよりも良い健康状態でなければ業務従事を許されず賃金を受け取れないというのは,不公平,不合理だから,ということです。

「職種や業務内容を特定せず」に雇用している場合には,他に適する業務があるのであれば,変更した業務に従事させて,賃金を支払わないといけない,と判断していることになります。詳しい判例の内容は,ブログ記事「精神的不調がある労働者〜業務変更に応じるべき場合,業務変更に応じなくてよい場合」に記載しています。

職種や業務内容を特定して労働契約をした場合

「職種が特定」されて労働契約を締結した場合には,別の他の業務を与えてまで職場復帰させる配慮義務は軽減されると考えられています。

職種を特定した雇用契約では,使用者はその職種の職務に従事してもらうために労働者を雇っていて,労働者はその労務の提供の義務を負っているからです。

最高裁の判例ではないですが,カントラ事件の大阪高等裁判所判決(平成14年6月19日)では,労働者がその職種を特定して雇用された場合において,その労働者が従前の業務を通常の程度に遂行することができなくなった場合には,原則として,労働契約に基づく債務の本旨に従った履行の提供,すなわち特定された職種の職務に応じた労務の提供をすることはできない状況にあるものといえ,会社に賃金支払義務は発生しない,と判断しています。(但し,その職種に就業可能になったときには,労働者が労働を拒否しているなどという事情がない限り,会社に賃金支払義務が発生すると判断しています。)

「職種を特定」して雇用しているのであれば,他の業務を用意してまで職場復帰させる義務はないということになります。

このように,元の仕事への復帰ができない従業員に,他の業務を与える必要があるか否かは,職種,業務内容を特定して雇用しているのかどうかによって異なることになるので,注意しましょう。

引き続き,多治見ききょう法律事務所では,企業(経営者,社長,事業主)が適切な労務管理,健康状態,メンタルヘルス(精神的不調)の管理をすることで,企業経営のリスクを回避し,良い職場環境の維持をするためのサポートをしたいと考えています。

岐阜県で企業の適切なメンタルヘルスケア対策・労務管理・良好な職場環境構築なら,多治見ききょう法律事務所(弁護士木下貴子)にご相談・ご依頼ください。

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