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養育費を強制的に回収するときの民事執行の手続きを定める民事執行法の改正法が,国会で成立し,令和2年4月1日に施行されました。
平成28年の統計では,母子家庭の4世帯に1世帯しか養育費を支払ってもらっていませんでした。(厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」参照)
しかし,法改正により,強制的に回収する手続きの実効性が大きく高まります。
そのため,これまでは,何とか支払わないで逃げ切られていたような事例でも,今後は逃げ切ることは難しくなります。
これによって,支払を逃れようとする親も少なくなるものと期待しています。
この記事では,次の順序で,民事執行法改正を,養育費回収の観点から説明します。
裁判所の手続きを利用した養育費の回収方法は,法改正前は,次のとおりとなっています。
(この図の他に,相手が住宅ローンが付いていない不動産を持っていれば,不動産を差押えて競売にかけることもできますが,養育費を滞納する親が,差押え可能な不動産を持っていることは多くありません。また,差押えができる場合も,不動産の競売には60万円以上の費用がかかるので,あまり現実的ではありません。)
調停や(執行認諾文言付き)公正証書で取り決めをすれば,相手の財産を差押えて強制的に回収する手続きを利用できましたが,差押える財産を自分で見つけてくる必要がありました。
多くの場合,比較的簡単に差押えできる可能性のある財産は,預貯金と給料でした。
預貯金は,取引銀行だけでなく,口座の取扱支店も特定する必要があります(ネット銀行を除く)。
わからないときには,預貯金のある銀行と支店を予想して,当たるか外れるかわからないその銀行・支店の預金の差押えを申し立てて,当たって残高があれば回収できるというやり方をするしかありませんでした。
1回はたまたまうまくいっても,その後は,別の銀行・支店に口座を作って隠されてしまい,その後の養育費の回収は難しくなっていました。
1度に複数の銀行・支店の預金を差押えしようとするときは,滞納となっている養育費の額を,分割して支店に割り振らなければなりません(例えば,養育費が100万円滞納していても,10カ所の支店で10万円ずつとするなど)。
そのため,複数の銀行・支店の預金に差押えをかけて,一部が当たったとしても,割り振った分(この場合10万円)しか回収できず,割り振り額を超えた分(預金残高50万円のときには40万円)が払い戻されてしまうことになっていました。
銀行の口座が分からない場合でも,調停調書,和解調書,判決など裁判所における取り決めの場合には「弁護士会照会制度」を利用して,銀行本店に対し,その銀行の全店舗について,相手の預金口座があるか否かと,口座がある場合には支店名・口座科目・預金残高の情報を照会できます(全店照会)。
ほとんどの銀行が回答してくれる状況となっています(裁判所の手続きではない公正証書による取り決めの場合には,回答しない金融機関が多いです)。
この制度を利用したい場合には,弁護士に相談・依頼することになります。
勤務先の給料支払者(住所と会社名・氏名)がわかりさえすれば,給料を差押えて,毎月の給料の中から養育費分を取り立てることができます。
ただ,転職されてしまうと,給料支払者を知ることは困難です。探偵費用を払って,探偵に後をつけてもらっても,わかるとは限りません。
派遣社員として勤めているようなときは,出勤先の会社とは別のところにある派遣会社が給料を支払っています。
財産目録を提出させる手続(財産開示手続き)もありますが,無視したときの制裁が軽く,実効性は乏しいものでした。
財産を差押えるのではなく,支払わないときに金銭の制裁を課す手続き(間接強制,履行命令)もありますが,養育費を支払わない人に,お金で制裁金を支払うよう命令しても,制裁金の支払いからも逃げ切ろうとしたり,制裁金を覚悟したりする親には実効性のない手続きでした。
また,財産開示手続きや履行命令の違反の制裁金は,国が制裁金を徴収して国の収入とする制裁であり,徴収しても子どもの生活費に回らないこともあって,裁判所がそもそも制裁を発動することに消極的でした。
このような状況でしたので,預貯金のありかと勤務先を秘密にして,裁判所の命令を無視し続ける親から養育費を取り立てるのは難しいということになっていました。
預貯金のありかを予測する方法も,探偵を使って給料支払者を知る方法も,費用対効果が悪いので,こうした方法を試みることなく,回収を断念している方が多いのが実情でした。
しかし,養育費の不払いが社会問題となっており,法改正がなされました。
養育費の関係で重要な改正のポイントは4つです。
(民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律案参照)
図にすると,次のとおりとなります。
(執行認諾文言付き)公正証書でも財産開示手続きが利用可能になりました。
これは,財産開示命令違反の制裁強化や市町村などへの情報提供手続が用意されることと相まって,公正証書の効力が格段に高まったという意味になります。
「費用をかけて公正証書で取り決めても,逃げ得が許されるならば意味がない(自分たちで合意書を作るのとあまり変わらない)」という法改正前の状況が,大きく変わることになります。
もっとも,公正証書には,家庭裁判所の調停と比較して,費用が高い,家庭裁判所の履行勧告・履行命令の手続きが利用できないというデメリットが残っています。
公正証書を作成するときは,その公正証書に不備があると,財産開示手続きが利用できないことがあります。
財産開示手続きなどの強制執行手続きの経験のある弁護士に相談して作成すると良いでしょう。
法改正前の制裁は,30万円以下の過料でした。
「過料」は,行政罰であって刑罰ではないので,前科になりません。払わないとき,当局が強制的な回収をすることはありますが,身体拘束されることはありません。
この制裁が強化され,「6月以下の懲役または50万円以下の罰金」の刑罰になりました。懲役の可能性もありますし,罰金でも,払わないときには,労働で支払わせる「労役場留置」のための身体拘束がありえ,前科となります。安易な無視ができなくなったといえるでしょう。
銀行本店に照会することで,預金の有無,取扱店舗,預金の種類,残高の回答をしてもらえる裁判所の手続きが新設されました。
法改正前は,銀行と支店を予測して差押えの申立をしてみるしかなく,回収は困難でした。
改正法によっても,口座のある銀行自体は予測する必要はありますが,銀行を特定して裁判所に申し立ててれば,取引のある店舗を教えてもらえるようになりました。
そして,予め銀行から回答を得ることで,預金のある支店だけに差押えをかけて,預金残高全額の回収がめざせるようになりました。
市町村は,住民税(市町村民税・都道府県民税)の特別徴収をしているときに,給料支払者の住所と名称を知っています。
日本年金機構(公務員や私立学校職員のときは共済組合)は,厚生年金保険料の徴収をしているときに,給料支払者の住所と名称を知っています。
こうした情報の提供が得られる手続きが新設されました。
この手続きは,財産開示手続の利用後にのみ利用できる手続きとなっています。
住民票のある市町村は1つですし,多くの労働者の厚生年金は日本年金機構管理ですから,(どの銀行に口座があるのかわからず,どの銀行に情報提供を求めれば良いか決めきれないという預貯金の情報提供手続きと比較して)情報提供の依頼先ははっきりしています。
住民税の特別徴収義務があるときにはきちんと徴収するように,地方公共団体が厳しくチェックするようになっていますから,住民税が課税される以上の給料をもらっていれば市町村が情報を持っている可能性が高いです。
厚生年金も,加入指導が厳しくなっている上,適用対象となる従業員の範囲が広げられています。
そのため,普通に勤めているときには,情報が提供される可能性が高いといえるでしょう。
情報が提供されれば,その給料支払者から受け取る給料を対象として差押えをし,毎月の給料から養育費分の支払を受けられることになります。
このように,預貯金のありかを見つけて預貯金を差押えできる可能性が高くなった,最終的には給料支払者がわかり給料を差押えできるようになったということになります。
養育費支払義務のある親から見ると,財産開示手続の段階で,「制裁覚悟で預貯金と給料支払者の情報を隠す」という選択をしても,結局見つかって差押えされてしまう上,正直に回答すれば受けないはずの制裁も受けることにもなります。
そのため,財産開示手続に正直に答える親が増えるでしょう。
そうなれば,銀行や市町村・日本年金機構への情報提供命令の手続きを利用するまでもないことになります。
もっと言えば,逃げ切れずどうせ差押えされるのならばと,自主的に養育費を支払う親も増えることと思います。
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