平成23年10月1日に東京都暴力団排除条例・沖縄県暴力団排除条例が施行されたことにより,全都道府県で暴力団排除条例が施行されたことになりました。
岐阜県では,岐阜県暴力団排除条例が平成23年4月1日に施行されていますが,岐阜県内の市町村レベルの条例として,平成23年12月16日に,坂祝町暴力団排除条例と輪之内町暴力団排除条例が施行されました。岐阜県の中では,岐阜市,各務原市,瑞穂市,下呂市など多くの市町村で既に暴力団排除条例が成立しており(平成24年3月末までに25市町村で成立しています),平成24年中に県内の全市町村で暴力団排除条例が成立する見込みです。
これら市町村の暴力団排除条例では,祭礼,花火大会,興行などの行事において,暴力団を利用したり,暴力団員等を運営に関与させたり,暴力団員等に露店・屋台を出させることを禁止しています。また,市町村が,青少年が暴力団に加入しないよう,暴力団に対する正しい理解の下に行動することができるよう,青少年に対する取り組みを行う旨の規定も置かれています。
このように,市町村の暴力団排除条例では,青少年に対する取り組みの規定が置かれますので,市町村で暴力団排除条例が施行されれば,市町村立の中学校の中学生に,暴力団とつきあったり,暴力団に入ってはならないという教育がなされることになります。暴力団に対する正しい理解が,中学生でも知っている常識となっていきます。
このようにして急速に暴力団排除が進んでおり,既に,暴力団関係者と取引をしてはならないのは当然のことで,暴力団関係者と取引を続ける企業は倒産してください,という時代になりました。
暴力団関係者と取引を続けている企業は,金融機関から突然融資の一括返済を求められ,元請からの発注が打ち切られ,賃借している事務所の明け渡しを求められるというような形で突然事業継続ができなくなる可能性があります。金融機関・元請企業・賃貸人も,暴力団関係者と取引を続けている企業に漫然と融資・発注・賃貸をしていると社会から非難を受けるのですから,自分の立場を守るために,取引先・賃借人の倒産を覚悟した行動をする可能性は十分です。
相手が暴力団関係だとわかっていて取引を開始するような行為は問題外です。
取引開始後,契約後に相手が暴力団関係だとわかった場合は仕方がないかといえば,そうではありません。暴力団相手の取引をしているということ自体が,社会からの非難の対象です。グレーな者を見分けて,そのような者と取引をしない,契約をしないように取り組むことが必要となります。
それでも,暴力団が契約の相手となることを完全に防ぐことはできないでしょう。そんなとき,暴力団排除条項が無ければ,相手が暴力団関係だというだけでは契約を解除できません。いやいやでもおつきあいしなければならなくなります。暴力団排除条項を定めましょうという時代にその条項を設けず,暴力団と取引を続けて,暴力団を儲けさせている企業,が社外からどのように見られるでしょうか。倒産してください,の仲間に入れられてしまっても,文句は言えないでしょう。
私が破産管財人として不動産を売却するときなども,最近では,不動産業者が,契約書の中に暴力団(反社会的勢力)を排除する条項を予め盛り込んだ契約書案を作成してくれるようになりました。暴力団排除条項も急速に普及していると感じます。
平成24年2月27日には,岐阜県公安委員会が,岐阜県暴力団排除条例に基づく初の「勧告」がなされています。
2月28日の岐阜新聞を見ますと,「各務原市の暴力団組長に乗用車を無償で貸与したとして……大垣市の産廃処理業者の男性社長(70)に利益供与の禁止を勧告した」「社長と組長は古くからのつきあい」と書かれています。
岐阜県暴力団排除条例に違反すると,このように,岐阜県公安委員会から勧告を受けることがあります。もし,勧告に従わなかったり,調査に協力しなかったりすると,業者名が公表されます。他の都道府県の暴力団排除条例も,同じような規定になっています。
条例上は,勧告に従わなかったときに業者名公表ということになっているのですが,勧告だけでも業者名を公表しない形での発表と報道がなされることが,はっきりしました。市町村名・業種・地位・性別・年齢まで発表されてしまうのですから,該当する人は限定されます。
破産管財人の業務など,弁護士業務上で廃棄物の処理が必要となる私は,この記事を見ただけでも,この記事を覚えておいて,今後の委託先選定に役立てることになります。
さらに,岐阜新聞では,岐阜県がこの産廃処理業者を入札参加資格停止にしたということも報道されています。勧告と入札参加資格停止は別の手続ではあるものの,運用上はリンクするということが,この前例からわかります。
岐阜県は,入札参加資格停止業者の業者名と理由を公表し,ホームページでも公開しています。
そうすると,岐阜県暴力団排除条例においては業者名が公表されないはずの「勧告」の処分も,入札に関与している事業者にとっては,大変に重い処分になります。
産廃処理業者だけでなく,入札をして官公庁から多くの仕事を受けている建設請負業者が同様の「勧告」を受けた場合,入札参加資格停止となり,業者名が公表されて,仕事が出来なくなるということも十分考えられます。
この産廃処理業者は,平成24年3月28日に産業廃棄物収集運搬業・処分業などの許可が取り消されました。廃棄物の処理及び清掃に関する法律は,業者が「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に該当すると許可を取り消すことになっていて,これに該当するとされたのです。取消処分の前に,聴聞を経る必要があるため,1ヶ月かかったものと思われます。許可事業を行っている業者は,許可が取り消されれば,廃業するしかありません。
暴力団関係者と契約をし,取引を続けた場合の損害は,最近,急に大きくなっているものであり,古い感覚で物事を考えると,経営判断を誤ります。
そのリスクは,リスク管理の面では,発生する頻度,発生した場合の損害を考えると,優先的に対処すべきリスクとなる企業が多いのではないでしょうか。
経営者の皆様には,まずは,暴力団排除条項を盛り込んだ契約をするという形での,リスク対応策に,取り組んでいただきたいと思います。
(弁護士 木下貴子)