暴力団排除条項の定め方の概要
暴力団排除条項の2つの要素
暴力団排除条項(反社会的勢力排除条項)は,おおむね,
- 暴力団とは契約の締結に応じないこと
- 暴力団だと判明したとき,暴力的な要求があったときには契約を解除すること
の2つの要素で作られます。
排除の対象者
単に暴力団の正式な構成員(「暴力団員」)と契約しないという条項では不十分です。正式な構成員(「暴力団員」)以外にも暴力団関係者がいること,暴力団関係者であることの証拠は集めにくいことをふまえて,条項を作成する必要があります。
元暴力団員・密接交際者の排除
まず,暴力団の正式な構成員以外にも暴力団の支配下にある者・企業が多くありますので,そういった者とも契約関係を持たないようにする必要があります。
最近の暴力団排除条項では,「脱退後5年以内の者」と「密接交際者」を,排除の対象に含めるようになってきています。
「脱退後5年以内の者」を排除の対象に含めるのは,暴力団と関わっている可能性が濃厚でも,現在暴力団員であることを証明するのは難しいという実情をふまえ,過去5年以内に暴力団員であった証拠を集めれば良いようにするためです。また,過去5年以内に暴力団の正式な構成員だった者の中には,形だけ暴力団から脱退して,実際は暴力団と深く関与しているような者も多くいますので,こうした者と契約関係を持たないようにする必要もあります。
「密接交際者」というのは,暴力団を利用したり,暴力団に資金を提供したり,暴力団と社会的に非難されるべき関係を有する者のことです。こうした密接交際者を排除の対象に含めるのは,暴力団の活動を援助・助長する者も社会から排除していく必要があるからです。
行為要件該当者の排除
また,相手が何者か(暴力団とどのような関係があるか)という属性面だけに着目していたのでは,怖い人がやってきて脅し文句で因縁を付けられた場合でも,何者かを証明しなければならないことになりますので,相手が何をしたかという行為面にも着目し,暴力団がするような行為をする者も,排除の対象に含めています。
契約書の暴力団排除条項の例
契約書を交わす場合は,条項例として,次のような暴力団排除条項が考えられます。
第○条(反社会的勢力の排除)
1 甲及び乙は,自己または自己の代理人が,次の各号のいずれにも該当しないことを表明し,かつ将来にわたっても該当しないことを確約する。
(1) 暴力団,暴力団員,暴力団員でなくなったときから5年を経過しない者,暴力団準構成員,暴力団関係企業,総会屋等,社会運動等標ぼうゴロまたは特殊知能暴力集団等,その他これらに準ずる者(以下「暴力団員等」という。)
(2) 暴力団員等が経営を支配していると認められる関係を有すること
(3) 暴力団員等が経営に実質的に関与していると認められる関係を有すること
(4) 自己,自社もしくは第三者の不正の利益を図る目的または第三者に損害を加える目的をもってするなど,不当に暴力団員等を利用していると認められる関係を有すること
(5) 暴力団員等に対して資金等を提供し,または便宜を供与するなどの関与をしていると認められる関係を有すること
(6) 役員または経営に実質的に関与している者が暴力団員等と社会的に非難されるべき関係を有すること
2 甲及び乙は,自らまたは第三者を利用して次の各号の一にでも該当する行為を行わないことを確約する。
(1) 暴力的な要求行為
(2) 法的な責任を超えた不当な要求行為
(3) 取引に関して,脅迫的な言動をし,または暴力を用いる行為
(4) 風説を流布し,偽計を用いまたは威力を用いて相手方の信用を毀損し,または相手方の業務を妨害する行為
(5) その他前各号に準ずる行為
第△条(解除)
1 甲または乙は,相手方が次のいずれかに該当した場合には,何らの催告を要せずして,この契約を解除することができる。
(1) 第○条第1項各号の表明が事実に反することが判明したとき
(2) 第○条第1項各号の確約に反して,同項各号のいずれかに該当したとき
(3) 第○条第2号各号の確約に反して,同項各号のいずれかに該当する行為を行ったとき
2 前項の規定によりこの契約が解除された場合には,解除された者は,その相手方に対し,解除により生じた損害を賠償しなければならない。
3 第1項の規定によりこの契約が解除された場合には,解除された者は,解除による損害について,その相手方に対し何らの請求もすることができない。
契約書を作るときには,暴力団関係者でないことの表明の条項を盛り込むことによって,「暴力団とは契約の締結に応じない」の裏返しの形である,「相手が暴力団関係者では無いから契約をした」との趣旨が明示されます。
業界別のモデル条項
業界団体によってはモデル条項(ひな型)を作っていますので,モデル条項が存在する場合には,モデル条項を用いるのが良いでしょう。下請け・孫請けからも排除する必要があったり,契約解除の後処理を円滑にする必要があったり,契約の目的物にも配慮する必要がある(たとえば印刷業界では暴力団関係の印刷物の印刷を請け負わないようにする必要があります)など,事業活動の特性に応じた条項が作成されていることがあります。
WEBで確認できる契約書型の暴力団排除条項のモデル条項(ひな型)としては,次のものがあります。
- 一般社団法人全国銀行協会 の 参考例
- 銀行取引約定書の暴力団排除条項の例です。
- 一般社団法人生命保険協会 の 約款規定例
- 生命保険約款の暴力団排除条項の例です。
- 一般社団法人日本損害保険協会 の 保険約款規定例
- 自動車保険,住宅総合保険(火災保険),普通傷害保険,賠償責任保険の保険約款の暴力団排除条項の例です。
- 一般社団法人日本少額短期保険協会 の 約款規定例
- 生命保険,家財保険・賠償責任保険,ペット保険,費用保険の少額短期保険約款の暴力団排除条項の例です。
- 一般社団法人信託協会 の 参考例
- 指定金銭信託約款の暴力団排除条項の例です。
- 一般社団法人日本建設業連合会 の 暴力団排除条項に関する参考例(ひな型)
- 建設業の請負契約の暴力団排除条項の例です。
- 民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款委員会 の 改正約款
- 平成23年5月に改正された民間連合協定工事請負約款の条項です。発注側が暴力団の場合にも対応しています。
- 一般社団法人不動産協会 の 条項例
- 不動産売買契約・不動産賃貸借契約の暴力団排除条項の例です。
- 新潟県警察ホームページ
- 一般的なモデル条項と,不動産関係(売買契約,媒介契約,賃貸借契約)のモデル条項がダウンロードできます。
- 大阪府警察ホームページ
- 駐車場賃貸借契約・レンタカー貸渡契約の暴力団排除条項の例などがダウンロードできます。
- 一般社団法人神奈川県トラック協会のページ
- 宅配便運送約款に暴力団排除条項を追加する場合について,国土交通省が通達で示した条項例がダウンロードできます。ヤマト運輸のニュースリリース,佐川郵便のニュースリリースも同様です。
- 経済産業省の委託調査「最近の投資事業組合を巡る事業環境の変化を反映した投資事業有限責任組合モデル契約書の作成に関する報告書」
- 投資事業有限責任組合のモデル契約書が示されており,38条,39条,53条が暴力団排除条項です。
- 国税庁に対する照会「特定退職金共済団体の退職金共済規程への反社会的勢力排除条項の導入についての照会」
- 改定例に,特定退職金共済団体の暴力団排除条項の例が見られます。
暴力団排除条項を追加する変更契約書に印紙を貼り付ける必要があるか
暴力団排除条例が施行されたことに伴って下請工事業者との間で締結している「工事下請基本契約書」の解除権の条項を変更する「変更工事下請基本契約書」について,課税文書に該当しない旨の国税庁の回答がなされています。
もっとも,実際に作成する変更契約書が国税庁の回答の前提と異なっている場合には,課税文書となる可能性もありますので,詳しくは,税務署・専門家に相談の上で対応してください。
約款の暴力団排除条項の例
契約書を作らないような事業形態(飲食店,小売店,ホテルなど)では,暴力団排除条項を含む約款を作成し,備え付けておく必要があります。この場合には,暴力団でないことを表明する書類に署名捺印してもらって契約するということができませんので,暴力団とは契約の締結に応じないことを約款に明記しておく必要があります。
条項例として,次のような暴力団排除条項が考えられます。
第○条 当社は,お客様が次に掲げる事由に該当すると認める場合には,○○契約の締結に応じないものとします。また,○○契約を締結した後に,お客様が次の各号に該当すると判明したときまたは該当したときは,当社は○○契約を解除するものとします。
- 暴力団,暴力団員,暴力団員でなくなったときから5年を経過しない者,暴力団準構成員,暴力団関係企業,総会屋等,社会運動等標ぼうゴロまたは特殊知能暴力集団等,その他これらに準ずる者(以下「暴力団員等」という。)
- 暴力団員等が経営を支配していると認められる関係を有する場合
- 暴力団員等が経営に実質的に関与していると認められる関係を有する場合
- 自己,自社もしくは第三者の不正の利益を図る目的または第三者に損害を加える目的をもってするなど,不当に暴力団員等を利用していると認められる関係を有する場合
- 暴力団員等に対して資金等を提供し,または便宜を供与するなどの関与をしていると認められる関係を有する場合
- 役員または経営に実質的に関与している者が暴力団員等と社会的に非難されるべき関係を有する場合
- 自らまたは第三者を利用して次の一にでも該当する行為を行った場合
- 暴力的な要求行為
- 法的な責任を超えた不当な要求行為
- 取引に関して,脅迫的な言動をし,または暴力を用いる行為
- 風説を流布し,偽計を用いまたは威力を用いて当社の信用を毀損し,または当社の業務を妨害する行為
- その他前各号に準ずる行為
約款を定めた上に,店頭に例えば次のように掲示しておくと,約款なんて知らないぞ,という文句に対応しやすいですし,暴力団が契約を求めてくることの予防にもつながります。
暴力団等反社会的勢力による当店の利用はお断りします(予約後または利用中にその事実が判明した場合には,その時点で利用をお断りします)。
業界別のモデル条項
WEBで確認できる約款型の暴力団排除条項のモデル条項(ひな型)としては,次のものがあります。
- 岐阜県瑞穂市の暴力団の排除についてのページ
- 暴力団排除条項を含む祭礼の露店等営業規則(申込み,表明確約等の書式付き)の例がダウンロードできます。
- 観光庁 の モデル宿泊約款
- ホテル・旅館の暴力団排除条項の例です。
- 三重県警察ホームページ
- ホテル・旅館の宿泊約款・宴会利用約款,ゴルフ場の利用約款の暴力団排除条項の例がダウンロードできます。
約款型の暴力団排除条項として,次のものも参考になります。
- NHK の 暴力団排除指針
- NHKの出演契約・調達契約の暴力団排除の指針です。書面を取り交わさない契約からの暴力団排除を想定し,指針を公表することで対応されています。
暴力団排除条項に関する多治見ききょう法律事務所の業務
多治見ききょう法律事務所では,お客様の業態に応じた具体的な暴力団排除条項の定め方についてのご相談・ご依頼をお受けしています。
岐阜県東濃(多治見市,土岐市,瑞浪市,恵那市,中津川市)・中濃(可児市,美濃加茂市,加茂郡,御嵩町)地域で,弁護士をお探しなら,多治見ききょう法律事務所(弁護士木下貴子)にお任せください。
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