むち打ちの治療打ち切りへの対応

むち打ちが保険会社との争いになりやすい理由

むち打ちは，正確な医学上の病名ではなく様々な病態を含んでいますが，その大部分は頚椎捻挫，頸部挫傷，外傷性頸部症候群など，他覚的所見に乏しい頸部の軟部組織の損傷です。
むち打ちの自覚症状は，頭部，頸部痛，頸部運動制限，眼精疲労，視力障害，耳鳴り，耳鳴り，めまい，吐き気，疲労感など多種多様です。このように自覚症状が多彩な割には，レントゲン検査，脳波検査等の結果に現れる他覚的所見に乏しいのが特色です。その上，現在の医学上，自覚症状のすべてを他覚的に裏付けるまでには至っていないため，客観的判定がしにくく，保険会社と争いとなることが多いのです。

治療費打ち切りと言われたときの対応

加害者の保険会社が，一方的に治療費支払の打ち切りを宣言してきたらどうしたらよいのでしょうか。現実に保険会社は，３か月や６か月というラインで治療費の打ち切りを言ってくることは多いです。

しかし，未だ症状固定（これ以上治療を継続しても症状の回復が見込めない状態）または完治していない段階では，これに応じる必要はありません。
治療を継続する必要性の有無については，主治医の意見が重要なウェイトを占めることは間違いありません。したがって，主治医とのコミュニケーションを密にすることはとりわけ重要です。「こんな事を言ったりしたら不愉快に思われてしまうのではないか」と遠慮する必要はありません。痛みや症状については正直に訴えて，カルテに記載してもらうようにしましょう。

治療費を打ち切られてしまったときの対応

では，実際に保険会社から治療費支払が打ち切られてしまった場合には，どうすればよいのでしょうか。

治療を継続する必要があると主治医が判断した場合，それでもなお保険会社が治療費の支払を打ち切ったとすると，一旦ご自身が自費で立て替えて，後に交渉や裁判を通して請求することになります。
「自費なら治療をやめる」というのであれば，保険会社もその程度の症状という認識となってしまいます。また，後遺障害の認定手続において不利に働くことにもなりかねません。
交通事故で健康保険は使えないと思われている方が多いようですが，健康保険は利用できます。医療機関は，交通事故のような第三者行為災害の場合，自由診療が原則であると考える傾向があるようですが，健康保険組合等に第三者行為傷病届を提出することにより健康保険を利用することができます（昭和４３年１０月１２日保険発第１０６号）。

転院に応じてもらえないときの対応

今の病院から転院したいけれど，転院予定の病院から保険会社の同意を求められ，保険会社が転院を認めてくれないといった話もあります。
転院する場合，まず，それまでかかっていた病院の主治医の了解を得る必要がありますし，診断書や診察経過についての申し送りが必要になることもあります。したがって，それまでの経過を観察していた主治医の意見は重要です。逆に言えば，主治医が転院を認めているのに，保険会社が口を出すのはおかしな話です。
どうしても保険会社が転院を認めない場合でも，やはりお身体が一番大切です。ふさわしい病院があれば，自費での通院を覚悟して転院したほうがよいと思われます。
また，転院しないまでも，セカンドオピニオンを得ることは有益です。治療を受けている病院以外に２か所の医療機関を受診したケースで，損害賠償の範囲内とした裁判例もあります（大阪地判平成１７年１０月１２日）。