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「裁判所HPより詳しい離婚調停解説」連載の第17回
とのご質問がよくあります。
離婚調停では,配偶者に直接話をするのではなく,調停委員に話をすることになります。
何を意識し,どんなことに気をつけて調停委員と話をしたら良いのでしょうか?
今回は,様々な場合に共通する内容について書きます。
あなたは,なぜ,離婚調停で調停委員に話をするのでしょう?
第一の目的は,いち早く自分のめざす離婚調停の終わり方(ゴール)になるよう,相手に話を伝えてもらい,説得してもらうためです。
しかし,離婚調停が自分のめざす終わり方で終わらない場合もあります。離婚調停が成立しないときに離婚裁判(訴訟)になるということも忘れないようにしましょう。離婚裁判(訴訟)の準備に有効活用すべく,調停委員に相手の主張や証拠を多く引き出してもらうために話をするという意識も必要となります。また,離婚裁判(訴訟)に取っておくべきことを出してしまわないように話をするという意識も必要になります。
これらを常に意識しないと,話の軸がぶれてしまう,さらには,言わない方がいいことまで言ってしまうということになりかねません。
そのため,調停委員に話す次の3つの目的を達成するため,意識した話し方をしましょう。
離婚調停では,別々に調停室に入って調停委員と話をすることになり,相手と直接話をすることができません。意見・希望を伝えることも,相手への説明・説得も,調停委員を通じて行うしかありません。
また,離婚調停は,当事者の希望を調停委員がかなえてくれるというサービスではありません。調停委員は中立な仲介者です。申立人の味方の役割も,相手方の味方の役割もありません。
当事者自身(あるいは代理人弁護士)が努力して,調停委員に,相手を説得する気にさせる必要があります。
聞いてもらいたいことをどんどん話す方がいらっしゃいます。一緒に暮らしていた夫婦の間で起きたことをとりとめもなく話したらきりがありません。
調停委員に話をすることには目的があります。
離婚調停の当事者は,同情してもらいたいという気持ちを抱いている方も多く,話の目的を忘れて,目的を持たない苦労話・不幸話になりがちです。つらい経験をはき出すことで,気持ちがすっきりして,離婚調停を前向きに進めていけるようになる場合がありますので,ある程度話すことは構いません。しかし,苦労話・不幸話ばかりで時間を使っては,本来の目的に使う時間が無くなってしまいます。
目的を意識して話をしましょう。
双方の解決希望に隔たりがあれば,調停委員が,一方又は双方に譲歩を求めて,調整をすることになります。調停委員が,正当な解決案だと理解すれば,相手に正当性を示して説得をしてくれることになります。正当な解決案だと思ってもらえなければ,調停委員は,あなたの言い分をそのまま相手に伝えるだけです。
正当性というのは,共感してもらえるようなことであれば,法律的な正当性である必要はありません。裁判(訴訟)になれば離婚が認められないような場合でも,離婚調停で自分が早く離婚したい・離婚すべき理由を伝えることは,よくあることです。たとえば,現在35歳なので,早く離婚して新たなパートナーを探せば子どもを作れるかもしれない,など。
ときどき,相手の口が上手いので,調停委員がだまされてしまうというご相談を受けることがあります。そういった能力も生かして話合いを有利に進めることができるのが離婚調停手続きです。口先だけで勝負する手続きではなく,あくまでも,事実に基づいた話合いをする手続きですから,事実により自分の意見が正当であることを示すことになります。
離婚を希望する場合には,離婚しないことによって,相手にも経済的負担(婚姻費用,裁判費用など)や精神的負担(裁判になって父と母が憎しみ合う関係になること等)が大きくなることなど,相手にとっても良い解決であることを示す形で話ができるとよいでしょう。
あなたの話を信じて相手に伝えたら嘘だとわかった,あなたの提示した解決案でまとめようと相手を説得したらあなたが提案をひっくり返した,ということがあれば,調停委員もあなたの味方をする気にはならないでしょう。
また,誰でも,無礼な人に協力したくはありません。
誠実を心がける必要があります。
調停委員に呼びかけるときにどのように呼ぶかは,弁護士によっても違いがありますが,「調停委員さん」か「先生」と呼んでいることが多いと思います。調停委員の年齢,当事者の年齢,地域によって最適な呼び方も違ってくるでしょうが,東海地方では「先生」としておけば間違いないと思います。
誠実というのは,調停委員の言うことに何でも従うということではありませんので,自分の意見をしっかりと持ち,貫くべきところは貫く必要があります。
調停委員は,一方又は双方に譲歩を求めることになりますが,あなたに譲歩を迫るのが困難と思えば,手間のかかるあなたの譲歩よりも,相手に譲歩を求めることを優先するでしょう。
相手が譲れるぎりぎりのところまで譲歩させようとするならば,調停委員に,相手の譲歩を引き出してもらう必要があります。
そのため,簡単に譲歩する人物と思われるよりは,譲歩しない人物と思われる態度が有効となります。
もっとも,正当性の無いような言い分を押し通そうとすることは,調停を決裂させようとしていると理解されても仕方がありません。
強行であり続ければ良いというわけではなく,離婚調停を決裂させたくないときは,譲歩すべきタイミングでは譲歩する必要があります。
調停委員はどんな人?というご質問をされることがありますが,詳しくは連載第15回「離婚調停の流れと関係者」に記載したとおりです。
最高裁判所の令和6年のデータによると,実際の年齢別内訳は,70歳以上の家事調停委員が7.1%,60歳代が58.4%,50歳代が23.4%ですので,ほぼこれらの世代の方々になります。
そのため,あなたがもしそれよりも若い世代の方である場合には,調停委員の価値観,考え方とずれやすいことをわかっておく必要があります。
例えば,男女の役割分担の考え方(女性は主に家事,育児,介護を担当するなど),暴力を許容する考え方(妻が言うことを聞かなければ,多少手を出すこともやむを得ない)で生活してきた可能性があることを理解しましょう。
あなたにとってはなじみのある「モラハラ」のような言葉も,理解されていないことを前提にして伝える工夫が必要です。あなたのご両親など調停委員の世代の方に話をしてみて,どのような考え方をしているのかを参考にして臨むのもいいと思います。
また,家事調停委員の職業別内訳では,弁護士が14.4%と高い割合になっています。
調停委員に弁護士の割合が高い理由は,弁護士は家事事件に関する法律を知っているため法律の解釈等の法的論点が出た場合でも対応できること,裁判になった場合の予測ができ,バランス感覚を持った調停進行ができると期待されているからだと思います。
そのため,あなたの事案では調停委員はどのようなことを考えると予想されるのか,どういう解決が「社会的に正しい」と考えるのかを弁護士に尋ねてみるのは有効な準備方法です。それを踏まえて,あなたの主張をどのように伝えれば,「正当な主張」と思ってもらえるのか,調停委員の価値観を意識して「話す内容」「話し方」を準備すると良いでしょう。
離婚調停では,調停委員への「話し方」が大事です。
あなたが弁護士に依頼をしないのであれば,あなたは,自分自身で調停委員に話をすることになります。
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そして,離婚調停であなたが話をするときに利用してください。
離婚調停は,調停委員が間に入りますが,一種の交渉です。
無駄なことに時間を費やさず充実した手続きにするのはもちろん,自分にできるだけ有利な展開に持ち込むようにしなければなりません。
交渉テクニックも大切になりますが,高度な交渉テクニック以前の基本的なことができていない方が多いと思います。
離婚調停は,相手に事実を認めさせる手続きではありません。
相手の主張の内,聞き流しておけばよいものがあります。相手の主張が明らかに不合理であったり,相手の主張通りであったとしても結論(正当な解決案の内容)に影響しないような場合です。
たとえば,
などといった主張です。
また,このような場合以外でも,相手の主張に深入りすることは良くありません。
相手の言い分を基に議論をすると,相手が問題としたいと考えている事柄について話をすることになります。それは,多くの場合,相手側に有利な話題です。相手に有利な点ばかりが話題になって離婚調停が進むことになってしまいます。
事実関係に全く争いの無い事案はほとんどありません。自分に不利なことを言われたり,有利なことを否定されると,どうしても反論したくなるものです。しかし,これに全て反論しているのでは,離婚調停の目的を見失います。意識的に反論を控えることが必要になってきます。
当たり前のことですが,自分の主張・意見をしっかりと伝えなければいけません。
「相手の主張に反論しすぎない」ことの裏返しの面があり,相手の主張に気をとられていると,自分の主張・意見を伝えることを忘れがちです。
言うべきことを言い忘れてしまった,と後悔する方が,実際にいらっしゃいます。
自分の主張・意見をしっかりと伝えるという意識を持つことが必要です。
最も伝えなければならないのは,離婚するかどうかと,離婚する場合には離婚の条件(親権者,養育費,財産分与,慰謝料,年金分割,面会交流など)です。離婚したい(したくない)理由,離婚の条件としたい理由については,相手方を説得するために必要な範囲で話をすることになります。
例えば,離婚すること,親権者が誰になるか,養育費の金額などに争いが無いのであれば,離婚したい理由やそのいきさつ,親権者,養育費の金額の正当性について詳しく話をする必要はありません。争いのある点にだけ絞って説得的な理由を話すようにしましょう。
いくら有利に運んでも,相手が合意してくれなければ調停の成立はありません。
など,希望通りの調停成立が見込めないことがあります。
そんなときどう対処すれば良いのか,自分にとっての離婚調停の次善の終わり方を意識して対応する必要があります。
次善の終わり方を意識していないと,
などをしてしまいます。
自分のめざす離婚調停の終わり方(ゴール)ができないと思ったら,どのようにして終わったらいいのかを意識して話をするようにしましょう。
離婚調停の半数程度が調停不成立または取下げで終わります。
そのときにも離婚調停を役立てなければいけません。
離婚裁判(離婚訴訟)では,争いのある点について,自分に有利な証拠を提出することが必要となります。何が争いになるかがわかれば,どんな証拠を探しておけば良いかの判断ができます。
また,証拠には,複数の評価が可能なものがあります。離婚裁判(離婚訴訟)では,自分に有利な証拠に見えて証拠提出したら,相手を有利にしてしまうということがありえます。相手の主張を知っていれば,そのような失敗を避けられることがあります。
したがって,離婚調停の機会に,離婚裁判(離婚訴訟)をしたときに予測される相手の主張を把握しておくことが大切になってきます。
不貞の明白な証拠を握られている,内緒にしていた不貞相手のことを知っているようである,暴力で生じた怪我の診断書を持たれている,忘れていたが謝罪文を書いていたなど,不利な事実・証拠を握られていることがあります。
相手がどのような証拠を握っているかにより,離婚裁判(離婚訴訟)の戦略は異なってきます。
調停委員の発言から,相手が握っている事実・証拠を読み取れば,離婚裁判(離婚訴訟)で適切な対処ができます。
離婚裁判(離婚訴訟)で有利に利用しようと隠し持っている証拠は,その存在や内容をできる限り知られないようにしなければなりません。
その中身を知られてしまうと,離婚裁判(離婚訴訟)で,その証拠と矛盾しないような巧妙な嘘を付かれることがあります。
もっとも,証拠があることを伝えることで相手が離婚調停に応じる気持ちに変わることもありますので,判断が難しいところですが,証拠の詳細な内容を最初から出し切ることは控えた方が良いと思います。
離婚調停が調停不成立にならなければ,離婚裁判(離婚訴訟)が起こせません。
これは,申立人にとっても相手方にとっても同じです。
「早く離婚したい」という人にとっては,離婚調停不成立となることが,裁判所の離婚裁判(離婚訴訟)での離婚判決に近づくわけですから,一歩前進ということになります。
また,離婚条件を話し合う場合に,離婚調停の場でじっくりと話し合う形が有利な場合と,離婚裁判(離婚訴訟)の中で離婚判決に近づきながら話し合いも行う形が有利な場合があります。
どちらが適切か迷う場合には,弁護士に相談して,その後の離婚裁判(離婚訴訟)でどうなりそうなのかの見込みを聞くことをお勧めします。ときどき,離婚調停を不成立にしてしまってから,ご相談に来て,やっぱり離婚調停で話を続けていれば良かったと後悔される方もいらっしゃります。
希望を聞いてもらえないことも多いですが,ただなんとなく離婚調停を続けるのではなく,離婚調停を続けたいのか不成立としたいのかについて自分の希望を持って進めることが大切です。
(弁護士 木下貴子)
弁護士木下貴子が,このページ「離婚調停で調停委員と話すときに意識しておきたいこと」をYouTubeでお伝えしています。
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