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最終更新日:2020年6月6日
これさえ読めば離婚調停が自分でできる「裁判所HPより詳しい離婚調停解説」連載の第22回
離婚調停で慰謝料・財産分与といった離婚時の財産のやりとりについて争いがあるときには,どうしたらよいのでしょうか。
を,順に説明します。
財産分与は,ひとことで言うと,「夫婦が協力して作った財産を分ける」ということです。
財産分与で,何を取得できるのかを決める上では,次の3点がポイントになります。
「夫婦共有財産」「特有財産」という用語が使われることがあります。
離婚調停でいう「夫婦共有財産」は,例えば,自宅の建物の名義が2分の1ずつの共有名義となっているような「夫婦共有名義となっている財産」に限らず,夫の単独名義になっているものであっても,婚姻後に購入し,夫婦の協力で取得できた財産分与の対象となる財産を広く含む言葉だと理解しておくと良いでしょう。
「特有財産」は,相続財産,結婚前の財産など,財産分与の対象とならない財産という程度の意味に理解しておけば良いでしょう。
財産分与は,結婚後に働いて稼いで形成した財産を合算して2で割って清算するというのが基本になります。「2分の1ルール」という言葉も使われるようになっています。
医師,弁護士など専門的技術によって収入を得て夫婦の財産が形成されているような場合,例外的に財産分与の割合が,半々ではなく,専門職を有している配偶者に多くなることもあります。
財産分与の対象財産の範囲を決める基準時は,「別居時」,「離婚成立時」などの考え方がありますが,夫婦としての共同生活が無くなった「別居時」とされることが多いです。
イメージとしては,婚姻時点を基準に夫婦の協力関係が終了する別居時点までに増やした財産を半々にします。婚姻時,100万円であった財産が離婚時(別居時)に1000万円となっていれば,差額の900万円が財産分与の対象になります。
そのような財産の明細が明確になると,不動産などの財産の金銭評価の問題は残りますが,適切な財産分与の額が概算できます。それぞれの名義の財産を積み上げて,おおよその金額を計算してみましょう。
評価時点は,離婚時または別居時です。そのため,不動産の価値,自動車の価値(時価)は購入当初よりかなり下がっていることがあり得ます。
たとえば,別居時の夫名義の財産500万円,妻名義の財産200万円だとすると,合わせて,700万円となります。700万円÷2=350万円となり,それぞれ350万円ずつもらうことになります。
その際,妻は,自分名義の財産200万円を既に持っているので,350万円−200万円=150万円を夫に財産分与として請求できることになります。裁判になれば裁判官が分与する財産を決定することになりますが,話し合いによる解決をめざす離婚調停の場では,現金として請求しても良いですし,不動産,保険名義の変更などとして請求することもできます。
このような概算額から大きく離れた要求をしていると,多くの場合,調停委員,裁判所から,無理を言っていると思われてしまいます。
財産分与を有利に進めるためのポイントは次の2つです。
結婚後に働いて稼いで形成した相手名義の財産が多いほど,結婚後に働いて形成した自分名義の財産が少ないほど良い(もらえる分が多くなる)ことになるからです。
財産を見落とさないように列挙する必要があります。
見落としやすいものとして,
があります。
結婚の時に抱えていた住宅ローンや車のローンで,結婚生活でその物を使っているようなときは,借金減少そのものでなく,一般的に住宅・車の中に夫婦で形成した財産が残っているという考え方をすることになると思われます。つまり,その住宅,車の別居時での時価を財産として計算することになります。
退職金は,近い将来にもらえる場合でないと財産分与の対象とならないと言われています。理由は,遠い将来にもらえるかどうかは,不確実だからです。しかし,不確実性があるからと言って財産分与のときに全く考慮しないというのも不公平ですので,支給が時期が遠い将来になる退職金であっても挙げておいて良いと思います。
預金,株式,生命保険等の金融財産が明らかにされていないときには,金融機関・支店を特定し,裁判所に申し立てて調査嘱託という方法で調査してもらいます。
どのように金融機関・支店を特定するかについては,同居期間中の記憶,手に入った証拠を精査して手がかりを見つけるしか無く,弁護士でも苦労しています。
別居する前に,相手方の預金,株式,保険などについて,どこにあるのか意識をしておくようにしましょう。
たとえば,夫の親が自営業をしており,夫がそこに勤務しているような場合に,親に財産が貯まっているときには,実質的には相手名義の財産が増加していると評価できる場合があります。
相手の親と同居しており,親の生活費の負担をしているような場合も考えられます。
非常に多く見られる主張に,「これだけ収入があったのだから,どこかにお金が残っているはずだ。相手方は隠している」というものがあります。
しかし,収入と支出から残っている「はず」の財産を計算しても,あまり考慮されません。支出を計算する際に,実際の支出額よりも小さく計算しがちで,計算結果があてにならないからです。相手の財産そのものを見つけ出すことを優先すべきです。それができなくても,財産が隠されていることを強く疑わせるような事実(短期間での多額の預金引出しなど)を見つけ出すべきです。
弁護士が財産分与の争いの依頼を受けたときには,4つの大切な要素に気をつけています。そして,交渉や調停に臨む前のステップとして,ご依頼者のため,重要な1つの行為を行います。
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自分の財産のうち,結婚前からの財産,相続・贈与により取得した財産を明らかにするには,資料を集めて,わかりやすく整理して説明することになります。
預金,保険については,まずは,結婚のときに既にその金額の預金,保険があったことの分かる資料(通帳の写し,保険証券の写しなど)を提出することになります。
現在は,結婚後に働いて稼いで形成した財産を合算して2で割って清算するというのが基本ですが,例外もあります。
夫婦の協力関係が無い期間の存在や,折半するのがかえって不公平な事情があれば説明すべきです。
といった事情があるときには,夫婦の協力関係の成果の一部を,一方が財産分与の対象とならない財産の中に先取りしていることになります。
このような事情を説明して,事情の考慮を求めることが有効な主張になります。
相手が浪費したから財産が残っていない(だから,残っている財産は自分に与えられるべき)という主張は,あまり考慮されません。使ってしまって既に無い物は分けようがない,浪費の基準が不明確,浪費を食い止める努力が不十分で容認・放置していたという面があるためと思われます。そのため,浪費の主張の優先順位は低いことになります。
浪費の原因がギャンブルの場合,納得できないことも多いのですが,これらは,「離婚原因を作った」慰謝料の主張などと合わせて,主張していくことになります。
相手が浮気したのに,お金を渡さなければいけないのか,と言われる方が,よくいらっしゃいます。
確かに,気持ちとしてはとてもよく分かるのですが,財産分与は,夫婦で共同して作った財産の「清算」ですので,離婚原因がどちらにあるか,どちらが悪いのかには関係なく,請求できることになります。
家計を管理していなかった側(主に夫側)から,生活費がこんなにかかるはずがなく,内緒のへそくりがあるのではないかという指摘がなされることがよくあります。
家計を管理していた側からしてみると,大きな勘違いで,一生懸命やりくりしなきゃいけなかったのに,と思うようなことがあるでしょうが,こだわりが強く,その主張を無視していては話が進まないことがあるものです。
調停委員から,できる範囲での説明を求められることがあります。調停委員が相手の味方をしているというよりは,話を進めるために求めていることが多いものです。
自分の収入,相手の収入の平均と支出のおおまかな内訳(食費,医療費,学費,ガソリン代,光熱費など)をできる範囲で説明するようにしましょう。
管理していた通帳の履歴なども開示しなければ,話合いが進んでいかないことが多いので,調停での解決を希望する場合には,開示しても「納得してもらえない」という不安はあるでしょうが,履歴の開示も必要となるでしょう。
購入した自宅に住宅ローンが残っている場合の財産分与には,以下のような問題があります。別記事「住宅ローンが残っている離婚のチェックポイント」もご覧ください。
基本的には,離婚時(別居時)の時価(時価が不明な場合は固定資産評価額が参考にされたりします)と住宅ローンの残高を比べます。
例えば,「時価1500万円>ローン残高1000万円」であれば,1500万−1000万円=500万円が財産分与の対象となり,自宅を取得する方がしない方に半額の250万円を分与することになります(第三者に売却する場合もほぼ同じです)。
どちらかの親が住宅購入資金の一部を負担(贈与)していたような場合には,その支払った金額も含めて,清算する割合を決めることになります。親から借金をして住宅を購入していたのであれば,まずは,親に返済する,という考え方になります。
「時価1000万円<ローン残高1500万円」の場合は難しい問題です。
売却すれば,残ったローン残高500万円の負債を半々で負担することになります。
一方が取得して,住み続ける場合には,負債の方が多いので,不動産の価値としてはゼロとして計算することが多いです。残ったローンについては,住む方が,家賃代わりとしてローンも負担する,という考え方が多く採用されている,と感じます。
このときは,どちらかの親が住宅購入資金の一部を負担(贈与)していたような場合であっても,財産としての評価がゼロなので,その金額を返してもらうのは難しいです。親から「借金」をして住宅を購入していたと言えれば,通常の負債の財産分与と同じで,半々を借金として負担する,という考え方になります。通常は「借用書」などのやりとりはなく,この場合には,「借金」と考えることは難しくなります。
住宅には住まないから,住宅ローンの保証人を抜けたい,連帯債務者をやめたい,という話は,非常に多くあります。
しかし,結論としては,なかなか抜けられるものではありません。
なぜかといえば,保証人,連帯債務者としての契約は,住宅ローンを借りた金融機関との間のものだからです。仮に,相手は抜いて良い,と言っても,お金を貸してくれた銀行などが了解しなければ抜くことができないのです。
他の保証人を付けてくれれば,という話もありますが,夫婦関係が悪化している相手のために,積極的に保証人を付けてくれるという相手も多くは無いのが現実です。もっとも,事案によっては,新たな保証人を付けないで抜くことができる場合もあるようですので,金融機関に自分で相談してみましょう。
財産分与には,次の3種類があると言われています。最高裁判所も,この3種類の財産分与を認めています。
しかし,離婚調停では,清算的財産分与だけを考えれば十分です。
慰謝料的財産分与が,慰謝料とは別に認められるわけではありません。また,慰謝料が認められるような状況でない限り,慰謝料的財産分与も認められません。
したがって,離婚調停では,精神的苦痛の賠償は全て慰謝料の争いとして交渉すれば十分です。
(離婚を先行させ,離婚後に財産分与・慰謝料を請求する場合には,財産分与請求の手続きと慰謝料請求の手続きが別の手続きになります。こうした場合は,財産分与請求の手続きで「慰謝料的財産分与」を求めて1個の手続きで解決することに意味があります。)
離婚によって夫婦は他人となるので,その後は,扶養してもらえないのが原則です。
その原則の例外として,離婚後も,一定の範囲で扶養を考えるのが,扶養的財産分与です。そのため,通常は,離婚後の生活費を負担させないと,あまりにかわいそう,と考えられるような特殊な場合にしか認められていません。
例外的な場合として,たとえば,家を出て愛人と生活している夫と,高齢の専業主婦の妻の離婚のパターンが考えられます。
しかし,平成19年4月に年金分割制度が開始され,結婚後に形成した年金の権利を夫婦平等に分割することができるようになりました。年金が受け取れる年齢(高齢主婦)であれば,年金分割をすれば足りるので,夫が受け取った厚生年金・旧共済年金の一部を,扶養的財産分与として離婚した妻に渡すという必要はなくなりました。
また,昔は,結婚後に形成した財産を清算的財産分与で分けるとき,専業主婦に認められる割合が低いのが通常でした。しかし,現在は,特殊事情がない限り,清算的財産分与は2分の1ずつというのが通常です。
昔と違って,女性もパートなどに働きに出る時代になっており,離婚後に収入が全く見込めないと言える場合も少なくなっています。
こうした中で,清算的財産分与に加えて,さらに離婚後の生活費を負担させるという例外的取扱をしてまで救うべきと考えられる場面が減っています。
つまり,ほとんどの夫婦にとって,扶養的財産分与は関係がないのです。
結婚を機に退職して専業主婦となったため,今後働いて生活するための収入を得るのが困難になった場合に,(清算的財産分与では足らないので)扶養的財産分与を考えることがあります。
しかし,これは,「扶養的財産分与」はなく,「慰謝料を増額する根拠」として説明した方が分かりやすいと思います。慰謝料を請求する際,「結婚を機に正社員を退職したのに,離婚せざるをえなくなり,少ない収入・無収入の状態から再出発しなければならない精神的苦痛」のような苦痛も理由に挙げることができます。例外的な取扱となっている扶養的財産分与に挑戦していくよりも,慰謝料を増額すべき理由で説明する方が,正当性を示しやすいものです。
扶養的財産分与が認められるような場面でも,扶養的財産分与の金額や計算方法の基準が定まっていません。基準がないために,一応,月額○万円の○年分という計算式を示すことはできても,それが正当であると調停委員に納得してもらうのは困難です。
裁判官が結論を下す裁判・審判手続きと異なり,合意による解決をめざす離婚調停の手続きでは,「慰謝料でも財産分与でも理由は何でもいいから○○万円欲しい」「慰謝料と清算的財産分与の相場で計算した金額では少なくて不当だから○○万円加算されるべきだ」と言って交渉するのと,あまり変わらないことになります。扶養的財産分与という「言葉」は使っても,説得的な計算式が示せないことが多いので,あまり意味がないことになります。
裁判事例においても,「扶養的財産分与」が認められている事例はほとんどありません。最近の事例として認められているものでは,妻が清算的財産分与だけではあまりに少なく,他方で,夫は固有資産,資力(収入)があるような場合に,住宅ローンが残っている自宅に住めなくなるのはかわいそうだから,「扶養的財産分与」として,しばらくの間住んでも良い権利(使用借権,賃借権)などを認めているようなものが,「特殊」な事例としてあります。
清算的財産分与と慰謝料相場を知り,これを受け取り,年金分割を受けても離婚後の生活の目途が立たないというときには,まずは,弁護士に相談して,本当に離婚していいのか?など,方針を練り直すことをお勧めします。
このように「扶養的財産分与」の交渉に意味がないとは言っても,小さい子供連れの場合,すぐに働くのはやはり困難,離婚後当面の生活費を負担して欲しい,出て行くのであれば,引越代を出してほしいという場合があります。
そのとき,本音の説明を抑えて,その分の金額を加算した慰謝料を請求したり,理由はともかく,これらの支払をしてくれなければ,離婚しない,と交渉することも可能です。ただ,このような交渉方法は,調停委員の共感を得られにくいという問題があります。
離婚後すぐに生活に困るような事態を避けたい,離婚に伴う引越費用がかかるというのは,本音の方が共感を得られやすい事情です。また,感情面だけでなく,「扶養的財産分与」という裁判所でも認められている「法律上の理由付け」があると,更に,調停委員の共感を得られやすくなります。そのときに,「扶養的財産分与」という考え方で支払ってほしい,という理由付けが有効になります。
つまり,「扶養的財産分与」を実際に計算して請求するというのは難しいのですが,離婚による引越代などの出費,生活費の減少を考慮してほしい場合に,その「法律上の理由付け」として「扶養的財産分与」を理由とすることになります。
また,相手方も「慰謝料請求」という形で請求されると,「俺は悪いことしていない。慰謝料は認めたくない」という気持ちから,抵抗されることも多いのですが,「生活が大変なので,扶養的なものとしてお願いしたい」と説明する方が抵抗されにくいことが多いと感じます。
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そして,離婚調停であなたが話をするときに利用してください。
慰謝料は,夫婦関係の破綻に責任のある側(悪い方)が,責任のない側に対し,精神的苦痛の賠償として支払う金銭です。したがって,この意味では双方が「性格の不一致」で離婚しようとする場合には,裁判上慰謝料が発生しない,ということがあり得ます。
しかし,離婚調停においては,そういう意味での慰謝料の請求ができない場合,もしくは支払わなくて良い場合であっても,支払って解決されていることも多いものです。これは,なぜでしょうか?
このようなことから,離婚調停の慰謝料は,離婚裁判の慰謝料と微妙な違いが生じてきます。この離婚調停の特徴を活かした,慰謝料の主張ができるように心がけましょう。また,裁判では,裁判官が慰謝料を認めるかどうか,その金額をいくらにするかを全て決めてしまいますが,離婚調停では,お互い譲り合って決められる手続きです。裁判にならずに早めに解決するため,どう考えたら自分が譲れそうか,相手に譲ってもらえそうか,相手方がどのような気持ち,どのような生活状況なのかを想像することも大切です。
慰謝料には客観的な基準は無く,離婚裁判(離婚訴訟)の裁判官のように決める人がいない離婚調停では,「適正な慰謝料額」を前提にした話が容易ではありません。もっとも,裁判での相場観と自分の主張が合っているのであれば,これを調停委員に伝え,主張の正当性を理解してもらうのが有用です。相場について詳しくは,連載第10回「失敗しない離婚調停申立書・付属書類の書き方」をご覧ください。
離婚調停は,法律以外も考慮して適正な解決をめざす手続きですから,法律上慰謝料を支払うべき場合かどうかを深く吟味せず,離婚条件を少しでも公平に近づけるという適正さための金銭の支払が話合いの対象になることがあります。これをふまえて,法律上「慰謝料」が認められるか,という観点を少し離れて,支払って解決しても良いか,解決すべきかを考えてみましょう。
自分と相手の「慰謝料」へのこだわりが何であるのか(お金自体なのか,非を形にすることなのか,報復感情なのか)がわかっていないと,離婚調停がかみ合いません。1つではないこともありますが,ウェイトがあるはずですから,ウェイトの大きいものを重点的に解決していくことになります。
離婚調停では,夫婦のどちらにどの程度の非があったのかが,慰謝料の形でしか残りません。相手に非があったことをはっきりとさせたい,相手に非を認めさせたい,相手に謝ってもらいたい,という希望・こだわりが,離婚調停時の慰謝料の話合いに影響します。
自分にそのような気持ちがあるのであれば,そういう気持ちを調停委員に説得的に伝えるようにしましょう。場合によっては,謝罪の文言を調停調書に入れてもらうことで,金額を下げる,という方向もあるかもしれません。
反対の立場では,非を認めたくない,自分には非がないということをはっきりさせたいという希望が,慰謝料の話合いに影響します。その場合には,支払うとしても,「慰謝料」という文言ではなく,「解決金」として支払いたい,などの気持ちを調停委員に伝えるようにしましょう。
自分が苦しんだから,今後の慰謝料支払で相手に苦労をさせたい,という報復感情が慰謝料の話合いに影響することがあります。裁判では認められにくい主張ですが,調停での解決のために譲ることができそうか,検討してみましょう。
離婚裁判(離婚訴訟)よりも前の段階である離婚調停では,離婚裁判で強制的に離婚を実現するまでに先が長いことになります。離婚が実現されるまでの金銭的負担(婚姻費用,弁護士費用等)も生じます。離婚裁判(離婚訴訟)になった後以上に,手切れ金としてお金を渡してでも,早く確実に離婚した方が良いという判断がなされやすくなります。最終的にどうした方が,時間,お金が得になりそうか,という観点で譲れるかどうか,検討してみましょう。
結婚あるいは出産のときに正社員を辞めたなどの事情により,離婚後の不利益が偏ることがあります。家を出て行く方に引っ越し代の負担をすることなども,これに当たるでしょう。養育費,財産分与でも考慮され得ることですが,幼い子がいる状態で働くこと,それまで無職だった方が年配になってから働くことは困難であること,などからも「慰謝料」として金銭を負担することが考慮されても良いでしょう。
「慰謝料」ではなく,「解決金」という名称で金銭の支払いを合意するという方法があります。どちらも大きく痛むことなく,まあまあの納得が得られる解決策です。
非を形にしたいという希望は,ご本人の考えの持ち方次第で,満足感が異なってきます。
もっとも,不貞行為が絡む場合,不貞に関係する慰謝料は,不貞行為の相手(不倫相手)との連帯責任となります。慰謝料を支払ったのか,慰謝料が支払われていないのかにより,不倫相手に慰謝料の支払責任が残るかどうかに違いが生じます。こうした場合には,解釈に疑義を残さない解決をめざすべきことになります。
財産分与が残っている物を分けるものであるのに対し,慰謝料は残っているかどうかに関わらず金銭の支払いをする性質のものですから,請求が適正であっても実際の支払は不可能という可能性があります。
一括払いが無理なら分割払いという選択肢もありうるのですが,分割払いも,収入から生活費を差し引いた残りの中から払うしかありませんので,収入が少ないとき,別途養育費・住宅ローンなどの支払いがあるときには,支払に充てられるようなお金が残らないことがあります。
支払を求められている立場の場合は,自分の財産の状況や収支状況を理解しておき,不可能な要求に対しては不可能であることを即答できるようにしておくべきです。
支払を求めるときには,不可能な要求をぶつけても成果にもつながりません。無駄な時間をかけるだけになります。相手の計算能力が低いために合意に至ることがあっても,すぐに払えなくなりますから,勝ち取った調停条項は無駄になります。
現実を冷静に見つめて,何が可能で何が不可能なのかを,見極めておくべきです。
お金に色はありません。財産分与・慰謝料で得られる「お金」は,働く,福祉的な給付を受けるなど,別の手段でも手に入ることのあるものです。
慰謝料へのこだわりが本当に金銭的に得になるのかを見極める必要があります。しかも,慰謝料は,相手に支払能力が無いために実際に支払ってもらえない場合があるのに対し,福祉的な給付は,条件さえ満たせば確実に得られます。
福祉的な金銭給付や保育所利用料についての詳細は,別記事「別居後離婚後の児童手当・児童扶養手当・保育料等の扱い」をご覧ください。
お金以外にも,離婚が成立するまで,精神的な負担,時間の負担が続きます。男性の場合は離婚が成立するまで他の人と婚姻できない,女性の場合は離婚が成立して100日経過しないと他の人と婚姻できないという負担が伴います。これらの負担はお金と比較しづらいのですが,意識しておく必要があります。
財産分与・慰謝料で損をしてでも他で得を取るという選択肢も検討しましょう。
(弁護士 木下貴子)
弁護士木下貴子が,このページ「離婚調停で慰謝料・財産分与に争いがあるときの対処法」をYouTubeでお伝えしています。
弁護士を付けないで離婚調停中の方に,私,木下貴子からのお願いです。
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