ご予約・お問い合わせはTEL.0572-26-9852
〒507-0032 岐阜県多治見市大日町21 大日ビル3号
これさえ読めば離婚調停が自分でできる「裁判所HPより詳しい離婚調停解説」連載の第7回
今回のテーマは「離婚調停前に確認・検討すること〜その4:婚姻費用分担請求調停を離婚調停と同時に申立てるか?」です。
「婚姻費用の分担請求」は,要するに離婚成立までの生活費の請求です。 (結婚式の費用ですか?と聞かれることが多いですが,そうではありません。)
「私は十分な収入があるので,離婚までの生活には困りません」という方は,読み飛ばして下さい。(子連れ別居の場合は,児童手当などに関する部分だけお読みください。)
離婚が成立するまでは,例外的な場合を除いて,相手方の収入も合算して保育料の計算をしますし,児童扶養手当ももらえず,医療費の免除などの制度も利用できません。(詳細は,別記事「別居後離婚後の児童手当・児童扶養手当・保育料等の扱い」をご覧ください。)
そのため,離婚ができるまでの生活を維持するのに,生活費(婚姻費用)の請求をした方が良い場合があります。
以下に当てはまる方は,特に申立を検討する必要があります。
反対に,ご自身の方が収入がある場合,子どもを相手方が引き取っている場合などは,こちらが婚姻費用を負担しなければならない場合もあります。
現実としていくらか婚姻費用(生活費)を負担してもらっている場合には,そのまま生活費をもらっていた方が,婚姻費用の分担請求調停をして決めてもらうよりも金額が多いこともよくあります。
婚姻費用の分担請求ができるのか,した方がいいのか,疑問に思った場合には,弁護士へのご相談をお勧めします。婚姻費用の分担請求の相談や,弁護士への依頼の方法については,別記事「別居中の生活費(婚姻費用)の請求手続と弁護士サービス」もご覧ください。
民法760条は,「夫婦は,その資産,収入その他一切の事情を考慮して,婚姻から生ずる費用を分担する。」と定めています。夫婦は,別居していても,離婚するまで夫婦であることに変わりありませんので,婚姻から生ずる費用を分担する必要があります。
衣食住の費用(家賃,食費,光熱費など)のほか,出産費,医療費,衣料費,未成熟子の養育費,教育費(保育料,学校の費用など),相当の交際費などのおよそ夫婦が生活していくために必要な一切の費用がこれに含まれます。(養育費は「離婚後」の「子ども」の生活費,婚姻費用は「離婚するまで」の「妻(配偶者)も含めた家族全体」の生活費です。)
資産,収入その他に一切の事情を考慮してなすべき分担がなされないときには,分担するように請求することができることになります。
現在の実務では,双方の収入でどちらがどれだけ負担するのか決められています。
浮気を原因に家を出た妻に婚姻費用(生活費)を支払わなければならないのですか?と聞かれることも多いです。事情によっては例外的に請求できないとされた事例もありますが,少なくとも,子どもさんがいる場合,別居する理由にかかわらず,なんらかの生活費の負担は免れないのが原則です。
婚姻費用を支払ってもらうには,婚姻費用の分担請求調停の申立をする必要があります。
離婚調停をするときでも,離婚調停の申立書とは別の申立書を出す必要があります。
申立書には申立手数料として収入印紙1200円分を貼る必要がありますし,連絡用の切手をあらかじめ予納する必要もあります。必要な切手の額は,裁判所によって違いますので,提出する裁判所に問い合わせして下さい。
パソコンで綺麗に簡単に離婚調停申立書と婚姻費用分担調停申立書を作成したい方のため,多治見ききょう法律事務所では,「離婚調停申立書&婚姻費用分担調停申立書簡単作成ソフト」(Wordテンプレート)を販売しています。
下のボタンをクリックして,「申立書簡単作成ソフト」販売ページをご覧ください。
離婚調停は,調停が不成立ですと,改めて離婚訴訟を提起しなければなりませんが,婚姻費用の分担請求調停は,合意に至らず調停が不成立となったとき,自動的に審判手続に移行します。そして,裁判官が審判という形で婚姻費用の額を決定します。
つまり,離婚そのものは改めて離婚裁判(離婚訴訟)をおこして,裁判(訴訟)を続けていくことになりますが,通常は離婚裁判(離婚訴訟)の方が長くなりますので,その間のいつかの時点で先に婚姻費用の額が決まり,離婚が成立するまで,これを支払ってもらうよう請求できる状態となります。
審判に不服があれば高等裁判所に対して即時抗告ができますが,不服申立期間内に不服申立が無かったり,高等裁判所で抗告が棄却されれば,審判で判断された通りの支払をしなければならなくなります。
調停で調停条項として合意された内容や,審判で決定した内容については,判決と同じ効力があって,守られない場合には,強制執行(財産差押え)をもすることができます。
離婚すれば受けられるであろう児童扶養手当の受給もなく,医療費免除などの優遇もない中で別居生活を続けるのは,生活費がかさんで苦しくなりますが,相手方に安定収入があり,生活費をもらえる場合には,離婚不成立になっても別居中の生活費のルールが定められ,安心して別居生活を送ることができます。
裁判所は,生活費を実際に支払ってくれなくなったとき(例えば別居時)からではなく,婚姻費用の分担請求調停を申立てした時点からの生活費しか認めない場合も多いので,申立が遅くなれば,認めてもらえる婚姻費用の額,期間が少なくなることがあります。
このまま別居生活を続けても,元に戻る可能性が低い中,妻の生活費だけは負担しなければならない(離婚すれば子どもの養育費だけとなります)という点に気づき,相手方が真剣に離婚を考えるきっかけともなります。
調停の限られた時間内で話し合いをすることになるため,離婚が合意ができそうなとき,離婚条件の調整が優先され,婚姻費用の分担請求調停の申立が無駄になることがあります。
反対に,婚姻費用の調整に時間が取られ,離婚するしないの調整,離婚条件の調整に充てられる時間が減り,離婚調停が長引く可能性があります。
結果的に調停で離婚できず離婚訴訟をする場合,離婚が遅れることがあります。
婚姻費用の分担請求調停をしなくとも,児童手当を確保する方法があります。
離婚を求める内容証明郵便,または離婚調停中であることを証明できる書類を用意し,役所で手続きすることによって,自分の口座に児童手当を受け取ることができます。
また,保育料の計算についても,市町村によっては,離婚調停中であることを前提に相手方の収入を加えず算定してもらえる場合もあるようです。市役所に必要書類や手続きを尋ねて進めてください。
分からない場合には,弁護士にご相談下さい。
児童手当や保育料については,別記事「別居後離婚後の児童手当・児童扶養手当・保育料等の扱い」に詳しく書いてありますので,ご覧ください。
このメリット・デメリットの程度は,人により違いがあります。
もし,婚姻関係が破綻した理由が,夫の浮気(不貞行為),暴力(DV)などのような場合であれば,離婚裁判で夫からの離婚請求が認められにくいことになりますので,婚姻費用を支払い続けてもらう,というのも一つの方法かも知れません。あとは,精神的負担などを考えて, 「ゴール」を明確にしましょう。
(「3つの視点の詳しい説明」については,このページに詳しく書きましたので,参考にして下さい。)
婚姻費用の分担の調停から,審判に移行するタイミングは,ひと言で言うと,話合いでは婚姻費用(離婚までの生活費)の金額が決まらないとはっきりした時点です。つまり,夫が一切婚姻費用を支払わない,もしくは,支払うと言っているけれど,その金額の差がひらいているような場合です。審判にした場合のデメリット(注意点)としては,審判では,裁判所の裁判官が,原則として婚姻費用算定表の基準に基づいて決めてしまうということです。もし,自分が望んでいる婚姻費用の金額が,裁判官によって認められる可能性が低い場合,夫が現在提示している婚姻費用の金額で調停による合意をした方がいいかもしれません。審判になったら,どのような結果となる可能性があるか,「見込み」を考えながら,審判に移行してもらうかどうかを考えましょう。また,審判で裁判所に決められるよりも,調停による合意によって自分で了解した婚姻費用の金額(調停による合意金額)の方が,強制執行などをしなくとも,支払ってくれる可能性が高いです。このようなことも考えて,審判にするかどうかを決めると良いと思います。
離婚すべきか,別居のまま婚姻費用をもらい続けるか,婚姻費用の審判に移ってもよいか,など判断に迷う場合は,弁護士に相談すると良いでしょう。(弁護士 木下貴子)
弁護士木下貴子が,このページ「婚姻費用分担請求調停を離婚調停と同時に申立てるか?」をYouTubeでお伝えしています。