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これさえ読めば離婚調停が自分でできる「裁判所HPより詳しい離婚調停解説」連載の第6回
今回のテーマは「離婚調停前に確認・検討すること〜その3:離婚調停で年金分割請求をするか?請求した方が良いのか?」です。
という質問をよくお受けします。
……離婚調停を申し立てる管轄裁判所が分かり,弁護士に依頼するかどうかを決めたら,次は,年金分割請求をするかどうかを決めましょう!
離婚調停のときには,離婚調停に附随して年金分割を求めることができます。正式には,「年金分割についての請求すべき按分割合を定める申立」といいます。
年金分割を求める場合には,必要書類を準備しなければなりません。
そこで,離婚調停のときには,
なお,裁判所の離婚調停で年金分割を決めるだけでなく,年金事務所などで手続きをする必要があります。
年金分割の対象となるのは,公的年金の内,厚生年金と旧共済年金です。国民年金(基礎年金)の分割はできません。
日本の年金制度は3階建と言われます。図に表すと,下図のようになります。
図の黄色の部分が,年金分割で分割できる年金です。
3階部分については,1個だけでなく,「厚生年金基金+確定拠出年金(企業型)」「確定給付企業年金+確定拠出年金(企業型)」「私立学校職員の職域部分+確定拠出年金(企業型)」の形では2重に掛けることも可能となっています。
厚生年金基金に「代行部分」(厚生年金の代行部分)がありますが,厚生年金として分割対象となります(厚生年金の分割手続の中で分割されます)。
なお,過去に存在した適格退職年金の制度の制度は,制度として消滅しています。
年金分割制度は次の2種類があります。
婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)について,按分割合を決めて,分割する制度です。
夫婦で按分割合を決めることができる制度であり,離婚調停の手続きで決めることもできます。
離婚調停のときにする年金分割は,この合意分割制度のものです。
平成20年4月1日以後の3号被保険者期間における相手方の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を2分の1ずつ,当事者間で分割する制度です。
3号被保険者というのは,厚生年金加入者に扶養されている配偶者(年収130万円未満)で,自分で国民年金保険料を納めなくても,国民年金加入者になっている人です。
「夫の扶養家族だから,国民年金の保険料を納めていない」という妻は,3号被保険者ということになります。
3号分割は,年金記録を分割してほしいと思えば,1人で年金事務所で手続ができ,夫婦間の合意が不要です。按分割合を決めることはできません。そのため,離婚調停の対象になりません。
3号分割の手続きは離婚成立後に行います。手順は,別記事「これから離婚をする夫婦の年金分割の手順と注意点」をご覧ください。
このように,厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)があり,さらに,その厚生年金記録が合意分割制度の対象のものであるときに限り,離婚調停で年金分割が可能となります。
細かく説明すると,以下の通りとなります。
これらの場合には,合意分割制度の対象となる厚生年金記録が存在しませんので,離婚調停で年金分割をすることができません。
分割可能な年金記録がない場合以外の場合ですが,具体的には,次のいずれかにあてはまるときになります。
には特別の判断が必要ですので,専門家にご相談ください。
年金分割を求めたとき,年金額はどうなるのでしょうか。
厚生年金を受給するには,老齢基礎年金(国民年金)の受給資格を満たす必要があり,10年間の加入(保険料を納付するか,申請をして免除を受けた期間)が受給資格となっています。
長期にわたり国民年金保険料の支払を怠ってきて,加入期間の要件を満たせないのであれば,厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)が増えても何の支給も受けられません。
10年間の加入期間の要件を満たせない場合には年金分割を求めることは無意味となります。
50歳以上の場合と障害厚生年金の支給を受けている場合には,「年金分割のための情報通知書」の申請書(年金分割のための情報提供請求書)に,年金分割をした場合の年金見込額の通知を求める欄がありますので,日本年金機構が正式に計算した見込額がわかります。
現在の制度を前提にすると,かなりおおざっぱな概算での説明になりますが,1年間の厚生年金加入で月収(ボーナスは月割して加算)の6.6%が1年の年金額という感じになります。
ボーナスも含めて1ヶ月あたりの額面給料が30万円の夫と3年で離婚したとして,年金分割割合50%とすると
30万円×6.6%×50%×3年=29,700円
年金分割をすると,65歳以降の年金額(年額です)が29,700円ぐらい増えるという程度の話になります。
もちろん,年金は生きている限り支払われますので,20年間受給すれば60万円ぐらいの違いになってきます。
共働きで夫婦それぞれが勤め先の厚生年金・共済年金に入っていたという期間は,足して2で割るようなことになります。夫が30万円,妻が20万円で,3年で離婚したとすれば,
10万円×6.6%×50%×3年=9,900円
です。
熟年離婚で,婚姻期間が長い場合には,年金額への影響は大きくなってきます。
もっとも,将来の年金制度がどう変わるかはわかりません。
婚姻期間が短く,若くして離婚される方,平成20年4月1日以降の婚姻期間がほとんどない方,自分の方が収入が多い,もしくは同程度の収入で年金に加入してきた方,相手方は途中から自営業になったなどで厚生年金,共済年金(2階部分)の加入期間が少ない方などは,年金分割の問題だけで離婚が決まらないような場合には,あえて年金分割を求めないという方も多くいらっしゃいます。
年金額への影響が小さくても,離婚調停で年金分割請求ができる場合であれば,年金分割請求をしておくべきだと思います。
協議離婚では難しく,離婚調停をすることになったのであれば,当初の段階では年金分割も請求しておくことが一般的です。
もっとも,実際の離婚調停は,親権・養育費・慰謝料・財産分与も含めた総合的な解決案を探ることになるので,年金額への影響が小さい場合には年金分割よりも,他の条件を重視すべきでしょう。
年金分割をしても,実際に分割された年金を受給できるのは,年金の受給資格を持つ年齢となってから(例えば20歳で離婚しても65歳からなど)ですから,今後年金制度も変わってしまうかもしれません。
ただ,人は,すぐにもらえるお金の方を重視しすぎてしまうと言われています。20年後から20年間毎年3万円ずつもらえるという選択肢と,今すぐ20万円もらえるという選択肢を与えられたとき,直感で選択するのではなく,20万円を国債・預金で運用したらどうなるかという冷静な分析を忘れてはいけないと思います。
離婚調停で決めた慰謝料の分割金,養育費などでは,相手方が資力が足りなくなり,合意どおりに支払われないというトラブルになることがありますが,年金分割であれば(法制度の変更の可能性はありますが)国からお金を払ってもらうことになるので支払の点で安心感はあります。
(弁護士 木下貴子)
弁護士木下貴子が,このページ「離婚調停で年金分割請求をするか?請求した方が良いのか?」をYouTubeでお伝えしています。