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最終更新日:2023年10月9日
お子さんとの面会交流をしたい父親が面会交流調停を自分で進める方法を,弁護士木下貴子(弁護士歴24年)が連載記事「弁護士木下貴子の面会交流調停徹底解説(父親向け)」でお伝えしています。
面会交流調停では,調停期日の間に,家庭裁判所調査官が主催して,家庭裁判所の庁舎内で面会交流を実施することがあります。「試行的面会交流」と呼ばれています。
連載第18回の今回は,その試行的面会交流について,次の順序で解説します。
試行的面会交流は,裁判官の調査命令により,家庭裁判所調査官が調査として実施するものです。
別居親の面会交流希望をかなえるための面会交流実施サービスではないことから,そのようなサービスとして実施してもらえるものではありませんが,調査として実施されたときには,別居親にとって子供と面会交流ができる重要な機会になります。
調査官は,試行的面会交流の場面を観察し,結果を調査報告書(調査報告書の様式(PDF))にまとめます。調査報告書には,面会交流の実施の可否や実施にあたっての留意点(どのような配慮が必要か)についての調査官の意見も記載されます。
面会交流調停が不成立になって審判となったときの裁判官の判断は,調査官の意見どおりとなることが大半です。つまり,試行的面会交流によって結果がほぼ決まってしまうことになります。
試行的面会交流は,家庭裁判所の庁舎(建物)内にある児童室(プレイルーム,科学調査室,家族面接室などとも呼ばれます)で実施されます。(児童室の写真と説明は,裁判所広報誌「司法の窓」の記事に掲載されています。)
児童室には,おもちゃ,ぬいぐるみなどの遊び道具や絵本があります。
児童室の様子は,別の部屋から観察できるようになっています。隣の部屋(観察室)からマジックミラー越しに観察できるようになっていたり,児童室についているビデオカメラの映像をモニター室から観察できるようになっていたりします。
児童室での試行的面会交流の実施場面は,以下の家庭裁判所調査官の広報動画に映っていますので,動画を観てイメージしておくと良いでしょう。
児童室の様子は,「ウィークリー千葉県」の特集「司法の現場千葉家庭裁判所」の動画(開始8分58秒のあたりから)も参考になります。
試行的面会交流による調査は,調査官がその事案毎に段取りを組んで進めますので,定まった手順というものはありませんが,次のような手順となることが多いです。
調査官が,専門的見地から,段取りを組んで,事前の説明・助言をし,実施時にもフォローのために立ち会ってくれるなど,成功させるための手厚いケアの下での面会交流となります。
事前面接では,同意書への署名を求められることもあります。
試行的面会交流当日は,交流場面を観察する調査官と,面会交流実施をフォローする調査官の調査官複数体制で行われることが多いです。
試行的面会交流当日は,タイムテーブルが用意されて,そのとおりに実施されます。父子の交流時間として設定される時間は,事案によりますが,30〜45分のことが多いです。
子供と両親が児童室にそろう場面を作って同居親が抜ける形を取る場合と,両親が同席しない形で交代する場合がありますが,当事者の意向もふまえながら調査官が段取りを組みます。
調査官の調査を受けるわけですから,調査官が試行的面会交流実施でめざしていることを知っておきましょう。
調査官の論文には,試行的面会交流の目的として,
等が考えられると書かれています。(千村隆ほか「面会交流が課題となる調停事件における大阪家庭裁判所の新たな取組について」家裁調査官研究紀要25号)
面会交流の実現をめざしている父親は,調査官のような第三者とは立場が違います。別居親である父親にとって,試行的面会交流を実施するメリットは次のような点にあると言えるでしょう。
大成功でなくても無難に終えられれば,概ねこれらのメリットが得られます。しかし,子供が父親を怖がってばかり,父親が子供とうまく遊べないなどにより,厳しい現実を知ることだけに終わることもあります。
ぎくしゃくして長時間の面会交流は時期尚早,頻繁な面会交流は困難などの結果になると,長時間の面会交流,頻繁な面会交流の主張が通りにくくなるというデメリットが生じることはあります。
試行の実施は原則1回です(例外はありますが,調査に必要な場合に限られており,別居親が失敗したと感じたときに「追試」のような形での実施を希望しても2回目の実施をしてもらうのは難しいです。)。
たった1回のチャンスを有効なものにするため,漫然と会うのではなく,準備して臨む方が良いでしょう。
このようなメリットのある試行的面会交流ですが,別居親側が試行的面会交流の実施を求めないときには,調停の期日だけが繰り返されることが多いです。
試行的面会交流を実施してもらいたい場合,調停の場で,しっかりと要求することが必要になります。
調査官は,試行的面会交流について,前記のような目的を考えています。調査官は,試行的面会交流を実施した後には,両親ともにその結果を受け入れて,子供の利益の観点から面会交流の実施の有無や方法を考えてもらいたいと思っているのです。
そのため,父母どちらかに,自分にとって都合の良い結果になれば利用するが,都合が悪い結果になったときには受け入れようとしないおそれがあるときには,試行的面会交流を無駄にしないため,先に前提を整える働きかけをする必要が生じます。
試行的面会交流を実施してもらおうとすれば,あなた自身に,結果がどのようになっても真摯に受け止めようという心の準備が必要となります。
試行的面会交流は,子供と面会交流をしている時間と,その前後の時間があります。子供と面会交流している時間については,通常の面会交流と共通する注意点も多いです。
日程や調整を調査官が実施してくれ,場所が決まっているものの,子供との面会交流ですから,通常の面会交流の注意点のほとんどが,そのまま当てはまります。
通常の面会交流と同様,次の注意点を守り,笑顔で面会し,(元)妻とも和やかに接することで,子供に心配をさせず,子供にとって楽しい面会交流にするのが望ましいことになります。
連載第16回の記事「面会交流調停中の面会交流で別居親が注意すべきこと」も参考にしてください。
調査官からも,これらの点について,事前に注意事項として示されることがあります。調査官からも注意事項として示されたことには,特に注意すべきことになります。
試行的面会交流の機会にプレゼントを渡したいときには,(元)妻の同意だけでなく,渡し方も含めて事前の調査官の承諾が必要です。
高額なものでなく,調査官の指示に従えるようであれば承諾してもらえることもありますので,希望するときは,調査官に尋ねましょう(不許可のときは,すぐに諦めてください)。プレゼントをする父親であることや,プレゼントに子供が喜んだことが,面会交流を実施した方が良い事情として考慮されることにならないので,これらとは別のこの機会にプレゼントを渡したい事情を説明しましょう。
「ママはどこに行ったの?」「次はいつ会えるの?」という質問に適切に答えられるようにしておきましょう。調査官からルールを示されているときはそれに従います。
家庭裁判所庁舎で調査官の調査として行う試行ですので,庁舎管理上の規制や調査官の指示に従わなければなりません。
事前に示される約束事項・注意事項に従うのはもちろんのこと,面会交流の途中に,状況に応じた指示があったときにも従う必要があります。違反があると,途中終了とされてしまうことがあります。
事前の約束事項・注意事項として,私用のおもちゃ・お菓子の持ち込み禁止,写真撮影・録音禁止の指示がされることが通常です(明確に言われていなくても,許可してもらっていない限り,これらは禁止です)。
また,単なる面会交流ではなく,調査官の調査ですので,第三者目線で見て良いと見られる言動をする必要があります。調査官は,あなたと子供が遊んでいる様子だけでなく,遅刻の有無,児童室に入室したときの視線・声かけ,(元)妻への言動,子供の鼻水・尿意への気付きや対応,終了時の部屋を出るときの発言や様子もチェックしています。
終わりの時間になってお別れするときには,調査官の指示に違反しないようにしながらも,子供を安心させられるような言葉をかけられるといいでしょう。言葉選びが難しい場面なので,事前に言葉を考えておいた方が良いでしょう。
児童室には危険な物が置かれていません。安全に気を遣わなくて良いという面では,余裕を持つことができます。
場所が児童室指定となっていて他を選べないことにはデメリットもあります。
外で体を動かす遊びで子供を楽しませることが得意でも,その強みを生かせません。室内でできる別の遊びをすることが必要となります。
また,遊園地や動物園のようにその場所に行くだけで子供が自然と緊張を解いて喜んでくれるような場所でもありません。あなた自身が上手に子供に対応することが必要となります。許可なくおもちゃの持ち込みをすることはできませんので,円滑な交流のために持ち込みを希望する場合には,調査官に事前に理由を伝えて相談しましょう。
交流場面が調査官に観察されています。(元)妻も,マジックミラー越しやモニターで見ていることがあります。あなたの代理人弁護士,(元)妻の代理人弁護士が見ていることもあるでしょう。
見られていると,そのことを気にしてしまう,格好を付けてしまうことにつながりやすくなります。
試行的面会交流を成功させるためには,あなたの「こんな面会交流をしたい」という思いよりも,子供のニーズに合わせることが大事です。具体的には,以下の点に意識した対応をすると円滑に行えることが多いと思います。
同居していたときに(元)妻を交えずに家の中で子供と仲良く遊べていたのであれば,張り切って珍しいことをするよりも,当時と変わらない優しいお父さんであると感じてもらうことが,子供の安心につながります。
予想よりうまくいかないことがあります。子供があなたに近寄ってこないような場合を想定し,おもちゃを利用しておもちゃに興味を抱かせて近づいてくるようにするなどの次の方策も考えておいた方が良いでしょう。
あなたが(元)妻に対して適切な態度で接しているかを調査官は見ています。(元)妻が無視するから無駄とわかっているようなときも,理想的な態度を見せることが良い評価につながります。
調査官からの事前に示された約束事項・注意事項の違反は,厳しい評価につながります。絶対に違反しないようにしましょう。
試行的面会交流を実施した後に感想を尋ねられる場合があります。あなたの満足感よりも,その日の子供の様子をふまえ,子供を思いやる気持ちが伝わるような感想が言えると良いでしょう。
今後の面会交流の進め方や希望についても尋ねられることがありますので,その日の子供の様子をふまえ,子供にとってどのような面会交流が望ましいと思うか伝えられると良いでしょう。
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(弁護士 木下貴子)